COLUMN

2016.5.30 DESIGNER

人の手と指の感覚

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.60
先日、当社の製品製作を協力いただいている山形の工場で2日間、製品の製作工程を、材料取りから組立、完成まで全てを見てきました。年に一度必ず製品の全ての工程を、自分自身の勉強の為にも見るようにしています。試作で工場内で立会う事はあるのですが断片的な製造だけです。通常品として工場ラインで流れる製品を一から完成まで全ての工程を通して見る事は、工場の方もあまりありません。31年以上通っている工場ですが、いつも発見があり、本当に楽しい時間でした。その工程を見ながら、ドイツの車メーカーの工場のドキュメンタリーを見ていた事を思い出しました。

ドイツの高級スポーツカーメーカー、ポルシェのシュトゥットガルト本社の歴史的建造物のある工場を、新工場にするドキュメンタリーですが、その中で一番力を入れていたのが最先端の塗装工場でした。より高品質の塗装にするために人の手が入らないように工場全体をクリーンルーム化して、埃を取るブラッシングまで完全ロボット化した塗装ラインです。ポルシェを代表するスポーツカーの911のボディのラインはプレスするのが難しく、911が発表された1964年からボディの塗装前には人の手でなでて、少しでも歪みがあればチョークでマーキングして修正する、ハンドメイド的な工程が有名で、多くの人の手が入る作りが売りでした。そんな記憶があったので、ポルシェも完全ロボット化したんだと少し残念な気持ちになりかけました。

しかし、一つだけ人の作業が残っていました。映像の中で、塗装自体はクリーンルームの中でロボットが行うのですが、塗装の仕上り検査で、光を使い塗装品質を確認する工程です。ここにはロボットはおらず、2 人の作業員が注意深くボンネットを見つめ、手袋を使わずに素手でそっとその表面に触れていました。次の工程で研磨が必要とされる不均一な塗装を見つけるにはこれが最良の方法そうです。ロボット化が進みセンサーが発達しても人の手の感覚にはかなわないそうです。山形の工場では塗装前の下地を掌と指でなぞるように触れて、完成時もなでる検査工程を見ていて、この映像を思い出していました。物は違っても最後は人が一番のセンサーなんだなと、、。どのくらいの凸凹を、人の指は感じる事ができるのでしょうか。調べると、2013年9月12日にストックホルム大学の心理学者チームが、「人間の触覚の限界」を研究した論文を発表。論文によると、人間の指は、13ナノメートルの小さな隆起が付けられた表面と、何もない表面を区別することができるそうです。10万分の1ミリ少しの表面が分かるなんて凄い精度です。

私自身、工場内で流れている製品をいつも手に取り、なでていて、塗装仕上がりの時にも触るようにしています。家具会社によって塗装の仕上がりは違います。当社の協力工場の塗装はいつもなでているのですぐに分かります。普段の生活でも物に触れるクセがあり、洋服の生地や、鞄や靴の革素材、食べ物はスーパーでもついやってしまうそうになり、気がついて手を引いています。ついトマトや茄子なんか触りたくなってしまいます。でも、昔、母親が八百屋さんやスーパーで物を手に取りながら選んでいたのを思い出しました、キュウリはトゲトゲのある物、茄子は張りがあって指滑りがよく艶やかな物、トマトは固めでずっしりと重さがある物など、指先がセンサーだったんだと。今は袋に入っている物が多く、触れない物が多くなってきましたが、、。

ぜひ、皆さんも物を選ばれる時、家具も触って優しく触れてみて下さい。良い物かどうか分かると思います。当社の家具も全てが良い触れ心地であるように品質に気をつけないといけません。  (クリエイティブ・ディレクター/瀬戸 昇)

左:ポルシェの新工場の塗装後検査ライン。素手で塗装の表面を触れて検査しています。他の塗装ラインでは、ほぼ全てをロボットが作業を行います。右:1970年代のボディ製作ライン。人の手でボディ組み立てと表面仕上げをしています。(Porsche AG本国サイトから)
左:組立後、塗装前の表面研磨の仕上がり検査です。ひっくり返して指先で裏側や、脚先まで触れて確認します。右:R1.5の面取りは指先で触って確認します。ゲージより指先の感覚が大切なんです。両方とも女性の職工さんですが、作業中でも手袋はしていません。