COLUMN

2018.7.30 DESIGNER

データの断捨離

AD CORE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.87
夏の西海岸セミナーが始まります。今回で16回目になる西海岸セミナーですが、一昨年、初めてアーカイブの中からテーマを決めて再編集をしたセミナーを開催しました。テーマはヴィンテージ建築特集で、以前のセミナーでは自分自身も気がつかなかった事が多く、眠っている画像を見返すことで違った視線で見ることで新たな話をすることができました。今回は2回目になるアーカイブの中からのセミナーで、巨匠、有名建築家の作品を集めた建築セミナーです。

2005年からアメリカ西海岸でカタログ撮影を行っていますが、その頃のデジタルカメラの性能と画像処理ソフトのフォトショップの機能は今と比べるとかなり劣っています。昔のセミナー画像を見ると画質のひどい写真ばかりだったので、今回のセミナースライドに流用するのを諦めました。そこで元写真のデータを見直して使える写真が無いか、保存用のハードディスクから探した元写真を画像処理をするとかなり良くなる事が分かりました。そこで、十数年前のデータを探し出すことにしたのですが、一苦労です。今ではフォルダ名を種別に分け、検索できるようにしていますが、その頃は二度と使わないだろうと、適当なフォルダ名をつけて保存していたせいもあり、なかなか見つかりません。

やっと、探し出した数百枚の元データをリマスターをすると、見えなかった所や色が分かるようになった写真が沢山ありました。10年以上前に撮った沢山の画像を再編集するのは大変ですが、記憶を元に色補正していくと、その時に気がつかなかった事や、素材や色まで見えてきました。今ではカメラの性能が上がり広角レンズの歪みが少なくなりましたが、昔の写真は画面の左右がかなり湾曲しています。それも今ではデジタルで補正できます。またカリフォルニアの強い太陽のせいで室内の陰影が強く暗い場所でも、シャドウ部だけを明るくする事で全体的に見えるようになりました。

今のiPhoneでも、写真補正機能を使えば逆光を補正するシャドウだけを明るく出来るのですが、パソコンソフトのフォトショップはさらに進化していて、ゴミや人やコンセントなども簡単に消せるようになりました。今回、使用する写真を千枚近く編集し直しましたが、真っ黒で使えなかった写真や歪んだ写真も、その機能によって壁や床の素材など、建物の詳細がより鮮明に見えるようになりました。昔の写真の元データを残していて本当に良かったと思います。写真などのJPEGデータはパソコンが新しくなっても開く事が出来るので、リマスターすると良くなります。パソコンデータは不要な物を捨てていかないと、データが溜まる一方で大変な事になりますが、ハードディスクに残して置けば、また使えるものもあります。

世の中断捨離ブームで要らない物を捨てて整理する人が増えていますが、昔のものを大切に残しておけば使える事もあります。物については長く使えるデザインや素材を選んでおけば、ずっと使えたり、また使うことができる日もあります。そのためには何が大切なものかを吟味する必要がありますが、、。今回のセミナーの住宅は古いものでは100年近く使われて、途中何度も廃虚になりかけた建物がたくさんあります。しかし、今ではリノベーションされて新たな価値を与えられています。時代を超えて愛される為のヒントがここにあるように思いました。

私達の家具も永く愛されて、時代が流れても復活出来るデザインをしなければいけません。秋の新作発表会に向けて開発を進めています。セミナー画像を処理しながら、今回の新作は長く愛される製品になっているか、なるような物作りはできているか、再度見直しをしなければ、、。今回の新作は今まで使った事のない素材を使用します。お楽しみに!
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:フランクロイド・ロイド・ライトjr設計の1926年建築のSowden House。上は2006年に撮影した元データで壁の素材や室内が暗く見えません。リマスター画像は壁側の植物や室内まで見えるようになりました。右:リチャード・ノイトラ設計の1956年建築のTroxell House。キッチンの写真ですが、パースがついていてインテリアの壁や天井が暗く素材感がわかりません。リマスター画像はパースが綺麗になり天井の素材も見えるようになりました。