COLUMN

2023.11.30 DESIGNER

中身から地球環境を考える

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.150
報道番組で気候変動の事を放送していました。2023年は人類の観測史上最も暑い夏になり、地球温暖化から地球沸騰化と言われるまでになり、世界各地では異変が相次ぎました。深刻な干ばつによる水不足で気候難民が急増したアフリカの事が紹介されていて、紛争難民と違い受け入れ先が少ない事や、先進国から戦争には何兆円もの支援が集まるのに対し、干ばつなどの難民に対して支援の手が届きにくい事が問題になっていました。地球沸騰化の理由が急速に進む世界各地の森林消失で、それが気候変動に拍車をかけているという事でした。代表的なものは東南アジアのパームヤシの農園で、農地のため森林を切り開き焼畑で森林が燃やされている、それが日本で洗剤やマーガリンなどの食用油になるためにという事です。

物作りに携わっている者は地球温暖化に対して責任ある製品作りを本気で考える時期になっています。販売される製品は価格競争のため、中身に使われる素材のコストを切り詰める必要があります。そのために工業製品だけでなく、加工食品でもフェアに取引されていない材料が使われる事があるようです。チョコレートに使われるカカオ豆の原産地での労働環境や買取問題からフェアトレードされた豆を使った事を認証する制度が生まれました。しかし、これは一部の事で、遺伝子組み換え表記はされていますが、多くは産地表記だけの材料が流通されています。日本では原材料の輸入依存率が90%越え、私たちの生活は海外からの材料輸入がなければ成り立ちません。コロナ禍で輸入コンテナの不足やウッドショックで輸入材の高騰など、原材料の高騰が続いてきました。その中で輸入先の見直しや国産材料の見直しなど進みましたが、景気の後退で高騰していた材料が余り出すと価格が下がり、また以前と同じ材料を使用する動きになってきました。

当社製品は国内生産の木製家具がメインで、椅子やテーブルの表面材はアッシュ材やオーク材、メープル材など北米やヨーロッパから輸入された材を使用しています。表面材は森林循環型の証明がある材料を使用していますが、見えない中に使われている材についての産地などは無関心だったと思います。特にソファやラウンジチェアのような大きな製品はファブリックで覆われた中に、椅子の数倍の木材料や石油由来のクッション材が使われていて、お客様からは中に何が使われているか分からなくなっています。ソファの中にはラワン合板や強度が必要な箇所には安価な南洋材が使用され、容積のほとんどを占めるクッション材には石油由来の発泡ウレタンフォームが使用されています。南洋材やラワン合板は東南アジアで伐採され5,000キロ以上海上輸送されて日本へ届けられています。森林伐採も危惧されますが、輸送距離の長さから二酸化炭素排出量が多い材料になっています。

2021年から製品梱包へのビニール袋使用や発泡スチロール材の使用を停止し自然由来の材に変更して、必要不可欠な石油由来の材はPPバンドなど再生品に変更しています。2023年モデルでは国内針葉樹合板とリサイクルされたリボンテッドフォームを80%以上使用した製品を発表し、2024年からは全ソファに使用されるラワン合板を国産針葉樹合板に変更します。また、2024モデルソファでは中身の合板を国産針葉樹合板や再生紙など100%近く国産材にし、クッション材のリサイクルフォームを90%まで高めた物を使用しました。針葉樹合板はその合板工場近くで伐採された木材を使用し、合板工場から近距離のソファ工場で製作しています。背に使用される再生紙は佐賀県の紙工場で製造した物を使用し、全ての材料輸送距離にこだわり、2024モデルソファは環境負荷率を極限まで抑え製造する事ができました。

私自身、当社の製品に使用される物はできるだけ自分の目で見るようにしているので、合板工場も見に行きました。九州山地に囲まれた玖珠盆地にある工場は、5年前に出来た最新工場で、材木置き場も周りの環境に配慮された置き方で、子供の頃に営林局員の父の関係で見ていたカブト虫の幼虫が沢山いた泥だらけの材木置き場とは全く違います。樹皮も燃焼させ工場での熱源に使用し、排煙も二次燃焼させて煙も出ません。残る材は5センチ程度の丸太でそれもガーデン用品として販売されゴミが全く出ません。杉や檜の間伐材や建材には不適合な大径木と言われる材を無駄なく合板に加工されていました。バイオマス発電に使用される為に燃やされる杉や檜材に比べ、本当に環境に配慮した使い方です。そしてなにより、植林と管理された森を育てる事に役立っています。お伺いした工場の方から聞いて気になったのは、ウッドショックと言われた昨年まではフル生産だったが、コロナが落ち着いて海外からラワン合板が入るようになり、出荷数が減り計画減産しているとの事です。環境に配慮した材を継続して使う事も持続可能な環境配慮だと思うのですが、、。

2024年モデルの発表会がいよいよスタートします。今回の製品はデザインだけでなく、製品の中身も感じていただければ幸いです。杉や檜の香りのするソファなんて素敵だと思いませんか。展示会ではリサイクルコットンを使用したトートバッグや、大分県日田市の下駄工房MOTONOで作られた日田杉特製コースターをお土産にお待ちしています。お楽しみに!
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:九州山地に囲まれた大分県の玖珠盆地にある工場。煙も二次燃焼させて排出しません。右上:ゴミ一つ無い貯木場。周りの環境に配慮して汚泥など流出しないようにされています。左下:巨大な合板工場内。中もゴミ一つ落ちていません。環境に配慮した製品を作る工場は中も綺麗です。右下:丸太はこのサイズの棒しか残りません。樹皮や他の木屑は工場のプレスなどの熱源になります。
左上:大分玖珠工場で作られた針葉樹合板を100%使用したフレームです。節などありますが、強度はラワン合板以上になるように厚さなど検討しました。右上:合板は無駄なくカットされてフレームに使用されます。椅子などの無垢材に比べ廃棄率が少なく無駄がありません。左下:2024モデル記念トートバッグ。リサイクルコットンが使われた布を使用しています。右下:日田市の下駄工房MOTONOで作られた日田杉のコースターです。MOTONOはスノーピークの下駄を製作している工房です。

2023.10.31 DESIGNER

これからの修理はどこに

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.149
機械物など人が使用する物はメンテナンスは必ず必要になります。近代の日本では新しい物が好まれ、使い捨て文化が根付いてしまっていますが、私が子供の頃は傘も使い捨てでなく、修理屋さんに出したり、ハサミも包丁も研ぎ職人さんが定期的に回ってきて家中の刃物を出して研いでもらいました。父は電気物が詳しくテスターとハンダゴテを持って家の家電を直していました。私もそんな親を見て育ったので、ハサミや包丁やナイフは研ぎ石で研ぎますし、故障した物はとりあえず修理しようとします。自分で手に追えない物だとプロに出すのですが、腕時計の定期的なオーバーホールと靴修理と車の車検と板金塗装だけはプロに任せます。

最近、機械式腕時計を2本続けてメンテナンスに出し、38年前から所有している車を久しぶりに板金塗装に出しました。腕時計は前回のメンテナンスから5年以上経った物が動かなくなりました。以前は百貨店や町の機械式時計の修理屋さんに出したのですが、帰ってから調子があまり良くなく、時間を合わせたりゼンマイを巻くリューズと言う所が固くなって、ゼンマイの長持ちがあまりしなくなっていました。それでも5年は動いていたのですが、突然止まって動かなくなってしまいました。今回は正規代理店からメーカーへメンテナンスに出しました。1ヶ月半くらいで帰った時計は嘘のように軽くゼンマイが巻け、いっぱい巻くと2日間以上持つようになりました。金額は町の修理屋さんに出すよりも倍くらいしたのですが、ポリッシュ磨きもされてピカピカな新品になって帰ってきました。

腕時計のオーバーホールは5年〜10年毎に歯車に付いた油を除去して新しい油を注したり、歯車軸やリューズの交換作業をする事です。私が所有している時計はIWCというスイス時計で、購入後20年以上経った時計なので、交換パーツがあるか心配だったのですが、永久修理を受けているという事で、私が生きている間はメンテナンスに出せるんだと安心しました。腕時計は好きな方が多く手に入りにくいメーカーやモデルがあります。5年以上前、所有していた腕時計を売って、あるメーカーのスポーツモデルを手に入れようとしました。しかし、お店に行くと置いておらず、その少し前から、Rが頭文字に付くブランドのスポーツモデルは世界的に人気で、世界中どこの店に行っても買えません。ネットを見るとマラソンと言われるほど店を巡り、店員に気に入られないと買えないと聞き、転売ヤーと言われる人たちも多く存在していました。そこまでして手にいれるのもなんだか、、と思い忘れていました。

最近、車や高級品が手に入れやすくなったと聞き、久しぶりにその店に行きました。しかし、5年前よりも物が置かれておらず、空のショーケースにサンプル品が置かれているだけです。店員にいつぐらいに買えますか?と聞くと、人気が無くなれば買えますよと笑って言われました。しかし、この構えの店で店員が何人もいるのだから、売り物がなければ、店として成り立つ訳ないのにと、心の中で叫んでしまいました。その時、老婦人が入って来られ時計の修理を依頼されました。聞き耳を立てていると、古い物だけど娘に譲りたいから修理ができませんか?と。店員はその時計を見ながら通常は生産終了から25年はパーツを持っているのですが、35年以上前のモデルなので修理できませんと。その老婦人はどうすればいいのでしょうか?と聞くと、店員は町の時計修理屋さんに持っていかれれば、直るかもしれませんよ。と、少し耳を疑ってしまいました。それが、高級時計で一番人気のブランドの言う事なのかと、、。

35年と言えば、そんなに古いとは思えず、私の車は1962年製で生産されてから61年が経過していますが、パーツは存在しており、今も修理も可能です。腕時計は一生物のはずで、機械式時計は永続的に修理できる物だと思っていました。調べると時計ブランドごとに修理可能年数が決まっているようです。私の所有するIWCは永久修理受付とあるので、少し安心しましたが、購入される時に、そのブランドの修理受付可能年数を調べ検討される事も良いと思います。メーカーによって7年や10年と短い会社もあります。機械式時計は10年なんてあっという間です。そういった修理を受け付けていないメーカーの時計をメンテナンスする修理屋さんが町に存在する理由なんでしょうね。メンテナンスしながら、長く愛用する事が本当の環境に優しくお洒落だと思いますが、流行りだけでなく、永く愛用できるブランドを選ぶのも大切なんです。

時計は人気なので町に修理屋さんは多く存在しますし、メーカーでも修理期間中なら修理を受付ています。私のカルマンギアは昨年末から車検に合わせ錆びた箇所を板金して全塗装しようと工場を探したのですが、日本では板金塗装屋さんが激減していて、お願いしようと思っていた工場に聞くとは3年待ちと途方に暮れる返事でした。やっと見つけた工場も20年近く前に全塗装した時の金額の数倍の金額で、それでもしかたないかと、依頼してから半年後ようやく預ける事ができ、それから半年が経とうとしています。あと何ヶ月かかるのか、、。聞くと日本中の車の板金塗装は少なくなっていて、塗装だけでなく、自動車修理工場自体が少なくなっています。建築インテリア業界だけでなく植木職人さんなど、どの業界も日本中で職人さんが少なくなっていて、メンテナンスに困る事が増えてきています。

本当の環境問題を考えるなら、永く使えるデザインと性能、メンテナンス可能な製品を作らないといけません。修理する場合は新品とあまり変わらないお金がかかる場合もありますが、経年変化など違う楽しみもあります。当社も1985年から38年の製品修理は可能です。2024年モデルはカーボンニュートラルを材料から考えた永く使える製品にしています。試作もいよいよ追い込みです。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

吉村順三設計1965年湘南秋谷の家で2016年にA-modeヘリテージの撮影を行いました。その際に表紙に使用したのが、所有する1962年製のフォルクスワーゲン・カルマンギアです。1965年の家に1962年の車を合わせた撮影でした。あれから7年経ちました。普通の車なら5年以上経つ古い車になります。
右:IWCパイロットウォッチマーク15。1999年〜2006年まで製造されたモデルで2003年製で20年経ちました。メーカーのメンテナンスに出すと今はレザーケースが付いてきます。ステンレスベルトの裏まで磨きがかけられて帰ってきました。左:IWCパイロットスピットファイア UTC 2002年製でこれも20年以上所有しています。両方とも39ミリのサイズで今の流行からは小さめですが、私にはちょうど良いサイズです。

2023.9.29 DESIGNER

環境問題は一人一人から

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.148
今年の夏は猛暑が続き今までで一番暑く感じました。会社の建物が古くエアコンがセントラル方式な事もあり効きが悪く、事務所内の気温が28度以下にはなりませんでした。ようやく9月末になり東京では涼しい風を感じるようになりましたが10月もまだ夏日が続くようです。今年は世界中で気候変動による、山火事や水害などの災害が特に多くなっていて、子供達の世代にはもっと大変な事にならないか心配になります。

SDGsの取組みについては大企業が行う事だと思われがちですが、今は中小企業でも、だけでなく一人一人個人でも真剣に取組む必要があります。当社では2022年1月からSDGsへの取組みとして、製品の養生材に石油由来の保護材やビニール袋を廃止し、自然に還る生分解性素材の不織布に変更、発泡スチロール材を再生紙に変更しています。しかし、家具業界での取組はまだまだで、当社が取組んで2年ですが、国内他社ではまだ見る事はありません。2023年モデルからは合板に国内の杉合板を使用しクッション材のウレタンフォームをリサイクルリボンテッドフォームの割合を増やし、カーボンニュートラルに取組んでいます。今年中には従来モデルソファのフレームに使用する輸入ラワン合板を国内杉合板に全て変更する予定です。

現在、使用している杉合板はソファ工場がある大分県日田市の合板工場で製造しており、日田杉の間伐材を使用した合板で、今まで使用してい輸入ラワン合板に比べ、輸入運搬時に排出される二酸化炭素を大幅に減らす事ができ、地元の杉材を使用する事で輸送時の燃料や二酸化炭素も最小限にする事ができます。大分県日田市は江戸時代から檜や杉が有名で幕府の直轄領の天領として山林が守られてきました。今でも日田市は杉の下駄の生産では日本一です。日本の家具産地はこういった材料の産地近くで発展してきましたが、近くで取れる家具材料が少なくなり輸入材を遠くから運ぶ為に、二酸化炭素の排出量も増やしていました。

杉などの植林された山林を守る為に間引きする時に出た間伐材については長く利用方法が考えられてきましたが、今は木質バイオマス発電所が多く作られ、杉の多くがチップ材にされ発電の燃料として燃やされています。その杉材は補助金で運営されている木質バイオマス発電所ため、高価格で取引がされるようになり林業は助かっていますが、地元の製材屋さんがセリで購入できない金額になり、廃業がする製材屋が増えていると聞きました。二酸化炭素を吸収する林を燃料にして二酸化炭素を排出するのは、排出と吸収がプラスマイナスというのは分かりますが、せっかく吸収した二酸化炭素を排出するでは、伐採や運送時に出た二酸化炭素をどうなるんだろうと思ってしまいます。ウッドショックから国産材の需要が増えて建築材の利用が増えていると聞きましたが、地元の製材屋さんが購入できなく作れないのでは、、。

先日、日田市に出張時に話を聞いたのですが、今は大径木の使い道に困っていると。建築材として適用なのは中径木(30センチまで)の木材で柱など中心材がある物は強度や反りが少なく、建築材として利用価値は高いが、大径木は中が赤黒くなり、芯材を外しての利用は弱く、乾燥が難しくワレやソリが多くなり使えないと。また、製材所のカット機械のサイズが中径木用なので製材する事も難しいとの事でした。長く建築材料としての需要が無く、伐採されなかった杉の大木が多く育っていて、運搬や製材の問題がある事から問題になっているようです。当社が使用している杉合板は小径木の間伐材と大径木などサイズを選ばない板(その代わり節など入る)なので、建築材にならない杉材が使用できます。

地産の材料で日本で使われる製品は地産地消で、本当の意味でのカーボンニュートラルではないかと考えます。工場の方からは節ばかりで杉合板は使えないと言われましたが、今では安定した価格と加工しやすい材料、加工時の香りも良いと好評です。SDGsやカーボンニュートラルは小企業が取組むにはハードルが高そうに思われがちですが、踏み出してみればできる事が多くあるように思います。子供達の将来の為に身の回りから少しずつ取組んでみませんか。2024年モデルはこの環境問題をより進めた製品を試作中です。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

日田林業は大分県日田市・日田郡(前津江村・中津江村・上津江村・大山町・天瀬町)の1市2町3村の総面積約66610haが杉の山林です。左上:日田市の中心街を流れる三隈川で夏には鵜飼による鮎漁が行われます。右上:三隈川の上流の天瀬町で数年前に水害に遭い土石流が流れ込みました。下:杉林のある前津江村、中津江村で伐採の後には植林がされます。
2023モデルのMASSA2。中に使用されるフレームの90%以上が日田市の杉合板が使用され、クッション材のウレタンフォームの90%以上がリサイクルリボンテッドフォームで、ポケットコイルの上に使われる緩衝用のフェルトも古布を使用したリサイクルフェルトが使われます。

2023.8.31 DESIGNER

樹木や草木は街の財産

NHKの連続テレビ小説で槙野富太郎をモデルにしたドラマが放送されています。高知出身の槙野富太郎がモデルになったドラマで、私も同郷で小さな頃から槙野富太郎の事は知っていましたが、連続テレビ小説の主人公になるとは思ってもみませんでした。槙野富太郎の日本の植物学での偉業はありますが、坂本龍馬など他の高知出身の偉人からは地味すぎるのと、研究に熱中するあまり実家の身代を潰した事は有名で、槙野富太郎みたいになりたいとは思いませんでした。それでなくても高知は日本の中でも山深く緑が溢れる地域で、営林署勤務の父親の転勤で山深い場所の草花に囲まれて育った事もあり、植物に関して興味はありませんでした。

東京に来てから植物の大切さが分かり癒されるようになりました。当社は最初、アメリカでNYのソーホーの繊維工場跡を使ったショップが流行っていて、それを参考に新橋の倉庫ビルに事務所を構え、お台場向こうの青海という埋立地の保税倉庫内にショールームを作っていたので、自然光は無く街路樹や緑もありませんでした。そういった事もあり、現在の広尾本社を探した時には、街路樹や緑が多い場所で自然光が入る建物という事が第一条件でした。それは大阪、名古屋ショールームも同じで、3箇所とも明るい自然光が入るショールームになっています。最近、世間を騒がしている車販売店で、ショールームの中を見やすくするためと、草取りの手間を省く為に公共の街路樹を撤去したり、除草剤で枯らしたりしたという事を聞いて悲しくなりました。

当社の広尾本社のある辺りは近くにチェコ大使館があり、昔ながらの大きなお屋敷がある場所で、会社の目の前には数年前までエネルギー会社の会長宅で、大きな敷地には広い庭と巨大なシンボルツリーがありましたが、現在は数軒の賃貸住宅(それでも大きな家ですが)に分けられて緑が少なくなりました。名古屋ショールームも3階でしたが、目の前の名古屋テレビ塔のある久屋大通公園の巨木が並ぶ気持ちの良い公園でしたが、今はショッピングパークになり、ショールームの窓の前に広がっていた巨木が無くなってしまいました。窓から見える緑の樹木が魅了で入居したのに、とても残念な出来事でした。相続で邸宅が小割になるのは仕方ありませんが、公共の場所の何年もかけて育った巨木が切り倒されてショッピングモールになるのはいかがなものかと思いました。

仕事で出張する事が多くレンタカーで街を走ると、家や建物よりも道の街路樹や植栽の手入れや雑草やゴミを見ると、その街の文化度や治安が良く分かります。これは日本だけで無く海外も同じで、汚い場所からは止まらずに速度を早めて過ぎ去りたくなります。田舎だと落ち葉など掃除は大変なのですが、文化度の高い街では道路から家の前もゴミや落ち葉が落ちていません。ショールームを探す時にも建物は素敵でも、近くに沢山のタバコの吸い殻が落ちていて条件を聞くのも止めた事があります。広尾に引越した25年前は邸宅が多く、緑も多く道路のゴミ掃除をしている方も多かったのですが、賃貸のマンションや住宅が多くなり、自宅でも要塞のような中が伺えないような家では前の掃除もされなくなりました。

先週アメリカ西海岸セミナーをしてセミナーで紹介する家は、家の写真だけでなく街並みや道路からの家の写真も見せるのですが、どの家も道路にはゴミが落ち葉がありませんでした。これは家の前まで掃除する義務が住人にはあり、ある程度のクラス以上は必ずガーデナーという庭師より掃除中心の人に頼んで綺麗にしています。道路と家の間にある芝生の剪定や草取りや水やりも住人がする義務になります。また、自邸の庭に植えた樹木であっても勝手に切る事はできず、庭を手入れしていなくても罰金を取られます。イギリスでは1927年にナショナル・ガーデン・スキームが設立され自邸を見せるオープンガーデンが始まり、現在では教会のイエローブックに4000カ所近くの登録があるそうです。

当社でも毎日全社員がショールームの清掃を行いますが、広尾本社では外の道路から植栽の草引きからゴミ取りをしています。会社の大きく育った樹木は高枝バサミで私自身が剪定を行います。この夏は猛暑の事もあり歩道に日陰ができるように少し大きめにカットしました。この夏は朝から猛暑で大汗をかいていますが、この街で商売をさせていただいている事を思い、向こう三軒両隣の言葉通りかかさず掃除をしています。その道路と街路樹が見えるエントランスの吹き抜けのソファ席が一番好きな場所です。ショールームへ来られる際にはエントランスの樹木も見ていただければ嬉しく思います。
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:エーディコア・ディバイズ広尾本社。チェコ大使館近くにあるショールームで、吹き抜けのエントランス前の樹木が大きくなり剪定は大変です。広尾の日赤通りはサツキが歩道に植えられて春には赤い花を咲かせます。10年前はもっと緑豊かな通りでした。右:名古屋ショールームで3階にありますが、名古屋テレビ塔がある久屋大通り公園の大きな樹木が目の前にあり気持ち良いショールームでしたが、今はショッピングパークのために切り倒されて無くなりました。
左:サンタモニカに建つ建築家ノイトラが設計した住宅。今まで見た中で一番気持ちの良い街並みにありました。右:パサディナにあるスイムウエアのデザイナーの住宅。巨大なカリフォルニアオークがシンボリツリーで、街の保存樹に指定されています。どちらの家も道路まで綺麗です。

2023.7.31 DESIGNER

深みのある仕事の理由

真夏の猛暑が続いています、この10年で一番の暑さだとか、。うだるような暑さになるとアメリカのロサンゼルスへ行きたくなります。ロサンゼルスは日差しが強いのですが、海側のハリウッド辺りは真夏でも最高気温は30度を超えることはあまりなく、最低20度と過ごしやすい気温で、真冬もそんなに気温が下がりません。それは西海岸はカリフォルニア海流と言われる寒流の関係で一年中過ごしやすい気温になっています。若い頃にベニスビーチの夏に海に飛び込んで、あまりの寒さに驚いた事がありますが、冷たい海流のせいで温暖な事を知りました。逆に日本は黒潮という暖流なのに、冬寒く夏暑いのはなぜだろうと思ったことです。

7月15日から東京都現代美術家でデイヴィッド・ホックニー展が開催されています。デイヴィッド・ホックニーは86歳のイギリス人で現在はロセンゼルスに居を構えるの現代アートの巨匠です。ホックニーは1972年の作品「芸術家の肖像画・プールと2人の人物」が9,031万ドル(現在価値約127億)で落札され、未だ破られていない存命作家による最高落札価格を記録をしています。今年2月に訪問したホンビーヒルにあるワイズマン アート ファウンデーションにホックニーのフォトコラージュアートが飾られていて、同行していたロス在住のプロデューサーのYASUKOさんから、自宅のあるウエストハリウッドの近くに彼の家があり、ホックニーの代表作にもなっているフォトコラージュ作品の「ペアブロッサム・ハイウェイ」のロケーション探しと、作品製作の手伝いをして、それが代表作になっている事を誇りに思っている事を聞いていたので、自分にも近しい人のように思っていました。

YASUKOさんはパームウスプリングに建築家ドナルド・ウェクスラー設計のミッドセンチュリー住宅を別荘として所有していて、ホックニーの作品に関わる事になったのですが、YASUKOさんの造詣の深さからそうなったと想像できます。YASUKOさんと仕事をするようになり感じたのは、YASUKOさんの本来の仕事であるファッション撮影のプロデューサーであるために、ファッションやフォトグラファーなどの撮影関係だけで無く、建築、インテリア、アート、デコレーション、映画、音楽までありとあらゆる事に通じていて、今でも勉強されているという事です。YASUKOさんと知り合う20年前まではプロダクトの事は好きで家具以外の事も知りながら仕事をしていましたが、物作り中心の知識の狭い範囲での考えでした。

アメリカ西海岸に通って、インテリアスタイルの重要性を感じるようになり、建物だけでなく、家具だけでもなく、本や小物など生活するための道具だけでなく、アートやファッションや音楽、車など、生活する全てが、人の生活に関わっていて、それがインテリアスタイルにつながっている事を知りました。YASUKOさんと西海岸住宅のロケハンや取材に行くと、家のオーナーが最初は硬い表情から、だんだん笑顔になり話が弾んでいく光景を毎回見ていて、それも全ての事に通じているYASUKOさんだからこそ、オーナーと共通の知り合いがいたり、飾っているアートを深く知っていたり、置いてある本のフォトグラファーが友人だったり、どこまでつながっているの?と感心します。ミック・ジャガーやジョン・レノンとも友人とは驚きましたが、私が中学生の時に聞いていたイギリスのロックグループのELPとも近かったと聞いた時は本当に驚いて、どこまで広い友人関係なのと感心しました。

アメリカ西海岸に通うようになり、私自身の家具デザインの仕事も、プロダクトというより、インテリアスタイルの一つとして考えたデザインになってきたように思います。それも一つに偏ったスタイルではなく、様々な様式と生活に関われるように時代に合わせながら変化してきました。今では、どんな仕事もそうですが、仕事以外の事もある程度分かっていないと、深みのある仕事にならないように思います。それが分かったのが40歳を過ぎた頃なので、遅いスタートだったかもしれませんが、。でも、YASUKOさんの今でも新しい知識を知ろうとする意欲や、ホックニー自身もポラロイド写真や72歳の時に発売されたiPadを使っての画像作成など時代ごとに新しい手法に取り組んでいます。専門職以外の違う知識の多さが深みのある仕事につながっているのではないでしょうか。

8月に開催するアメリカ西海岸レポートでは初めてプロデューサーのYASUKOさんの家も紹介します。アートに囲まれた自邸はモダンすぎず、オリジナルヴィンテージ家具が置かれるセンス抜群のインテリアで岩合光昭の世界ネコ歩きでも撮影されました。その他、1970年代から90年代のハーパスバザーの全盛時代を築いたフォトグラファーのフィリップ・ディクソンの自邸やスイミングファッションデザイナーの自邸を紹介します。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:1968年建築のYASUKO邸。ウエストハリウッドの山に建つ邸宅です。向こうに見える住宅はトミーフィルフィガーの息子の家で数年前に1000万ドルで購入したそうです。右上:様々なアートがあり、置かれる家具はオリジナルのヴィンテージ物です。右下:家具・彫刻アーティストのポール・エバンス(1931-1987)のダイニングセット。これほど大きなセットは珍しく8万ドル以上の価値があります。左下:デイヴィッド・ホックニーの1986年の「ペアブロッサム・ハイウェイ」ポラロイド写真を使った複数の視点から見る事をテーマにした作品。
8月末のセミナーで紹介する建築です。左上、右上:ロサンゼルスのダウンタウンにある、チャールズ・リーが1926年に設計したシアターをアップル社が買取り、7年かけて修復をしたアップルショップ。左下:1989年建築のフィリップ・ディクソン邸。世界的フォトグラファーの彼自身の住まいとスタジオを兼ねた家で、フィリップ・ディクソンの世界観で作られた空間の家。右下:1950年代に建てられたスイムファッションデザイナーのブルーロッド・ビーティの住宅。