COLUMN

2024.2.28 DESIGNER

祈りを守る優しいモダン建築

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.153
沖縄に行く機会があり、以前から行ってみたかった建築を見に行きました。その建築とはNHKの新日本風土記「沖縄の家」で紹介された教会で、与那原町にあるカトリック与那原教会(聖クララ教会)です。放送ではシスターの家「花ブロック」としてコンクリートブロックとステンドガラスのモダン建築、その場所を祈りの場所として生活しながら使うシスターと、その建築を守り、さまざまなシスターたちの困りごとに対応している1人の男性を紹介していました。セミナーがWebになり沖縄へも行く機会が無くなり、なかなか行く事ができませんでしたが、沖縄に行く事になり最初に訪問しました。

放送では、ステンドガラスからの柔らかな光が入る礼拝堂はアメリカ西海岸建築のようなモダン建築で、その建物を大切にし花を育てながら住まうシスターの質素な生活と、その雑務や作業を行う男性との繋がりを見る事ができました。その男性は補修の時に出た扉のツマミやネジ一本も捨てずに全て保管し、費用をかけずに修理をしていました。ホームセンターが身近にある今でも古い部品を保管してそれを使う姿は、質素な生活をしながら祈りの場所を守る事からですが、今のアメリカ西海岸で多く見られる建築当初のオリジナルを守るリノベーションで、建築に価値を与える手法にもなっています。その建築を肌で感じたいと沖縄いに行く機会を待っていました。空港からホテルに着いて荷物を置いてすぐに与那原町へ向かいました。

沖縄でも肌寒い2月で、雨が落ちそうな空で夕刻が近づく遅い時間だったので、中に入れるか心配になりながら、建物下の幼稚園に車を置いて階段を見上げるとモダンな建物が見えてきました。静かな敷地で誰もいません。急足で階段を上がって教会の玄関へ曲がると、老シスターが花を見ながらこちらへゆっくり歩いて来られていました。敷地に勝手に入ったお詫びを言い「教会を見に来ました。中を見せていただく事をお許しいただけませんか?」と話しかけると、シスターは「花が綺麗でしょう。その花を見に歩かせ、あなたにお会いできたのも神様のおかげですね」と笑顔で教会内に向かいました。なんて素敵な言葉なんだろうと温かい気持ちになりシスターの後に続きました。簡素な玄関を入り中庭を抜け礼拝堂に案内いただいたシスターは「自由にご覧下さい。よければ神様にお祈りをしてお帰り下さい」と去って行かれました。中には礼拝されているシスターが1人いらっしゃいましたが、ふと見ると居なくなっていました。突然の見ず知らずの訪問者をその祈りの場所に入れて下さり、自由にさせていただく優しさを感じました。

建物は高低差のあるバリアフリーの回廊の中に庭があり、そこから礼拝堂の中に入ると、片側全面の色ガラスから柔らかな光が礼拝堂のベンチを包んでいました。曇りの夕刻でもこの光なので、晴れた日は光の中にいるような空間になると感じます。この建物は1947年にバチカンの要請でグアム島から宣教のため沖縄にやってきたアメリカ出身のフェリックス・レイ神父の主導により建てられたました。建物の完成は1958年で、設計を担当したのは在日米軍建設部所属の日系人建築家・片山献と、シカゴに本拠地を置く建築設計事務所SOMです。1958年は第二次世界大戦で壊滅的になった沖縄では街の復興はまだまだの時期で、丘の上に建てられたモダン建築から見えるステンドガラスは復興のシンボルになりました。風が内部空間に良く通るように穴の空いたコンクリートブロックと沢山のガラス扉が開けられるようになっていて、冷房設備の無い時代の工夫が多く見られ、それがモダンデザインになっています。

祭壇の脇に部屋があるので、司祭の部屋かなと思ったのですが、病気のシスターや信者が寝たままミサに出られるような病室で、バリアフリーの回廊といい1958年から優しい建築だった事が分かります。スロープになっている大きな屋根は水不足だった沖縄のため、水を集める機能があり、その水を地下に貯めてこの地域を幾度も襲った干ばつに役立ったそうです。地下には洗濯室があり、その貯水量を測るための計りもあるそうです。この教会が表面的デザインだけでなく、機能からこの建築デザインもある事を知りました。窓枠などは新しく作り直されていますが、色ガラスや天井板や扉のノブなどはオリジナルの物が使われて時代を経た落ち着いた空間が保たれています。優しい光の礼拝堂にいるとマティスが手がけたロザリオ礼拝堂は行った事がありませんが、きっとこのような気持ちになれるような気がしました。

この修道院には20名越えるシスターが暮らし日々の奉仕と祈りの信仰生活を送っています。建物から出ると夕方のミサの時間なのか、シスターが集まって来られました。老シスターにお礼を言って聖クララ教会を後にし、落ち着いた気持ちの自分になっていて、荘厳で豪華な教会よりも信仰心が強くなれる気がしました。家具も豪華さではなく人に寄り添う機能美が大切で素敵に思います。聖クララ教会に行かれる方は礼拝の場所ですのでシスターにお声がけしてくださいね。2025年モデルの企画がそろそろ始まります。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

1958年完成のカトリック与那原教会(聖クララ教会)。左上:与那原の町から丘に見える教会です。とんがり屋根の教会ではなくモダン建築建築です。右上:建物の玄関側から見ると中庭の向こうに礼拝堂の屋根があるので平屋の建物にしか見えません。左下:礼拝堂の祭壇の後は南側に面していて二重構造でコンクリートブロックのスリットから風が入り建物内に風を通して涼しくする工夫があります。十字架がなければ教会に見えません。右下:西側の壁はガラスになっていて色ガラスがモダンな色彩構成のようになっています。
左上:玄関を入ると回廊がありコンクリートの花ブロックが風を通します。廊下はスロープでバリアフリーになっています。1958年にバリアフリーの考えがあった事に驚きます。右上:回廊から中庭を通して礼拝堂を見ます。中庭には上下開けられる窓があり風を通します。左下:祭壇の右側が西側の窓で傾斜した天井が祭壇上のスリットに熱気を逃します。右側の部屋は病気の方が寝ながらミサに参加できる部屋があります。右下:西側のガラスはステンドガラスに見えますが、色ガラスを枠に納めて色構成させステンドガラスに見せています。