COLUMN

2025.9.29 DESIGNER

インテリアにもレストモッド

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.172
レストモッド(resto-mod)とは、古い車を修復して改良することで、レストレーション(修復)とモディフィケーション(改造)を合わせた造語です。これまではビンテージカーはレストアを行う場合、ビス一本まで限りなくオリジナルな状態に戻す方法が最善で、製造された状態に近いほど価値がありました。イタリアのスポーツカーメーカーのフェラーリが自社で公認するフェラーリクラシケはその世界のトップクラスで、それを取得することを目指すオーナーも数多く存在します。ランボルギーニやポルシェも修復部門を持ち、自社のブランドを高めることにも役立てています。また、オリジナル状態の車の価格が高騰し、本来乗って楽しむことを目的とした自動車から、所有するだけで美術品と同じ投機対象とされる目的が多く、所有して走行距離が伸びて価値が下がることを恐れて乗られていない車が多く存在します。

その流れとは別にレストモッドという手法がありレストアとは違う方向の、改良手段として人気になっています。レストモッドとは、外観はオリジナルに修復し、エンジンや足回りなど最新パーツを流用して、現代の交通事情に合わせ快適に乗るために行われます。以前は走り屋が早くするために違法改造を車に施すことが知られていましたが、現在はレストアと異なる価値を与える手法として世界的に流行しています。例えば、ポルシェのナローと言われる1970年代の911は高騰していますが、50年以上たった車に快適性はなく、運転を楽しむには適していません。その70年代車体を修復し、新しい年代のエンジンや機器を搭載する改造や、新しい車の外観を1970年代風に見せる改造を施したナローポルシェがマニアの間で人気を集めています。レストモッド専門の「シンガー」という会社は、顧客の持ち込んだ車体にレストア&モディファイを施すことで有名になりました。彼らが有名になったのは964と言われる1993年までの空冷の最終モデルに最新パーツを使い、1970年代の形に戻す手法で、内外装は顧客のニーズに合わせることで大成功を収め、アメリカとイギリスに750人のスタッフを抱えるまでになりました。

アメリカでは車の改造だけでなく、建築にも同じような手法があります。有名建築家が設計したミッドセンチュリー時代の建築を美術品と同様、投機目的のもと設計図に戻すレストレーションや、家具もオリジナル時代の物が高額で取引されています。一方、レストモッドに近い手法で、外観はオリジナルに修復し、内部は最新式の機器に変更して、現代的に快適に過ごす改良された建物が多く存在します。ロサンゼルスのダウンタウンにあるアールデコビルなどは、外観はそのままで、快適なコンドミニアムや店舗にして新築物件よりも価値のある取引がされるリノベーションです。ダウンタウンのデパートとオフィスに使われていた1930年のイースタンビルや、1925年のナショナルビスケットカンパニーの工場をコンドミニアムに改修したり、映画館として使われていた廃虚建物がアップル社の旗艦店として改修された建物があります。どちらも骨格を含めて外観や内装の多くはオリジナルに修復されており、人が関わる場所については、エアコンの吹き出し口を工夫したり、トイレやプールなど最新技術を使って改良されています。日本で多く見られる歴史的建造物の一部の外壁だけ古い箇所を残し中は普通の事務所仕様にしてしまう改修とは考え方が違います。

欧米ではヴィンテージカーと同様、プロダクトだけでなく建築にも懐古的なデザインに価値を持つ人が多く存在します。価値を感じる人が多いということはビジネスチャンスがあるということで、欧米ではそれをビジネスにする会社が多く存在しています。日本でも昭和風のプロダクトや1980年代の旧車が若者に人気になっています。アメリカでの日本の旧車人気も影響されているのですが、アメリカでは製造から25年以上経過した右ハンドルの車をそのまま輸入できる法律の例外にあたる特別ルールが存在して、そのルールで日本製の旧車が安価で輸入できるようになり、今ではその時代の旧車にしかないデザインが人気で、価格よりもデザインが人気の理由になっていて、その影響で日本での旧車の価格も高騰しています。日本では以前はお金のない若者が安い中古車や古い物件にしか手が出ないというニーズからでしたが、建築やインテリアでも自動車同様、他にはない無二のデザイン性が価格を決める時代になってくるのではないでしょうか。その際に重要なのは基本骨格と表面のデザインを大切する事です。

日本では古い建物や住宅がどんどんなくなりつつあります。リノベーションだけでなく、建築をレストモッドし付加価値を追加して取引することも考える時代になっているように感じます。当社は1985年からの製品が残り続けています。40年たった製品は今の若者にも共感される物になっているのでしょうか…。他にはない無二のデザインになっていければと思います。今年は40周年記念イベントも企画しています。その前に展示品のセールもありますので、お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:シンガーでレストモッドされた1993年の964型911を1970年代の901型911にレストモッドしたモデル。ボディはバンパーなどナローボディ、エンジンは最終型のエンジンを使用し、足回りや内装など最新式のものを選ぶ事が可能です。車持ち込みで50万ドル(8000万)からです。右:瀬戸が40年前から所有している1962年のカルマンギアでエンジンや足回りは載せ替えています。エアコンは数年前に電気式クーラーにしました。外観はオリジナルに近いのですが、ブレーキはドラムからディスクへオイルクーラーも装着してオーバーヒートはしません。中身は現代的になっていて最近の猛暑の気候や道路事情にも合うように改造しています。これもレストモッドと言えるかもしれません。
左:ザ·イースタンビルは1930年にワンタイム百貨店として建てられ、 現在は世界的に有名なアールデコのランドマークとなっています現在はコンドミニアムとして改装され、屋上にはプール庭園が作られ、空調など快適な空間になっています。右:1925年にナショナルビスケットカンパニー(ナビスコ)の工場として建てられ現在はコンドミニアムやオフィスとして改装されています。建物の窓枠は工場の熱に耐えられるように銅製でできていて、現在も使用されていました。どちらも外壁、窓枠はオリジナルの物が使われています。