COLUMN

2025.11.30 DESIGNER

バイオフィリックデザインとは

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.174
40周年記念パーティーと六本木本社での新作発表会が終わりました。40周年には800名近いお客様にお越しいただき、本当にありがとうございました。懐かしい方や遠方のお客様にお会いできて、大変嬉しく思いました。40年を振り返る初期の図面や、モデルの年表などを見ていただき、「懐かしい」という声や、手書きの図面は微妙な線の太さが変えられ、美しく感じられ、ポスターにして欲しいなど、ありがたいお言葉をいただきました。また、たくさんのお客様のご来場で、展示品に触れることができなかったとのお声をいただきましたが、40周年の図面や模型展示は1月末まで六本木本社で行っていますので、新製品の展示と合わせてお楽しみいただけます。六本木本社ショールームへお越しくださいませ。

2026モデルの新作発表ではエフォートレスなクラシックモダン大人のカジュアルデザインを目指した1980年代を感じていただける製品を発表しました。また、従来製品をより魅力的なバリエーションにするために製品追加を行い、その説明をさせていただきました。バリエーション追加では2023年に発表した有機的な形状のキドニーソファの新しい進化製品を発表しました。そのキドニーソファは現在、当社の販売の中では群を抜いて好調な製品です。以前、コラムの中でニューヨークのビリオネアーズ・ロウのペントハウスで有機的なキドニーソファが部屋の中心を飾る置き方をされていて、バイオフィリックデザインという考え方に基づいているインテリアと紹介しました。今回の新作展示会ではその話をさせていただきました。バイオフィリックとはバイオ(生命・自然)とフィリア(愛好・趣味)を組み合わせた造語です。

その時に少し話したバイオフィリックデザインのことを少しお話ししたいと思います。バイオフィリックデザインは人間が本来持っている「自然とつながりたい」という欲求を、建築や室内空間に取り入れるデザイン手法で、自然の要素を積極的に活用することで、心身の健康や生産性の向上を目指すことで、アメリカの生物学者であるEdward Osborne Wilson(エドワード・オズボーン・ウィルソン)の理論を基盤としています。その理論とは、人間が他の生命体や自然とのつながりを求める本能的な欲求を持っているという考え方です。1970年代後半からウィルソンは、地球規模の生物多様性保全に関わり研究しました。1984年には「バイオフィリア」を出版し、人が自然環境に惹かれる進化論的、心理学的根拠を探りました。

バイオフィリアという言葉は、精神分析医のエーリッヒ・フロムによって1973年に初めて紹介されました。その後、1984年のウィルソンの著書「バイオフィリア」によって広く知られるようになりました。この作品で「バイオフィリア」という言葉が広まり、現代の保全倫理の形成に影響を与えました。バイオフィリア仮説は、人間は生存と個人の充足のために進化の過程で自然や他の生物とつながることへの遺伝的欲求を持っていることを示唆しています。この考え方は日常生活にも当てはまり、人は国立公園や自然保護区を観光したり、ビーチでリラックスしたり、ハイキングや山に登ったり、自然に触れるために旅行し、お金を使います。アメリカでの住宅購入の観点では、自然の景色を望む住宅により多くのお金を使う傾向があり、購入者は景観の優れた住宅には7%、水辺の景色を望む住宅には58%、ウォーターフロントの住宅には127%より多くのお金を使い、動物との友情を大切にして6,020万人が犬を、4,710万人が猫を飼っています。コロナ禍でその傾向はより高まってきました。

日本でもコロナ禍に自然の中で過ごすキャンプやグランピングが流行し、インテリアに植物を多用するようになったのはバイオフィリア理論からだったのかもしれません。また、インテリアに有機的なデザインの家具が多く取り入れられ、1970年代の丸っこいソファが使用され、今はその時代の復刻製品が多く見られるようになりました。そして、アメリカのインテリアでもキドニーソファのような有機的なソファが多く使われるようになり、当社のキドニーソファも人気を集めています。デザインや物事には全て理由があるんだなと、この年齢になって改めて感じました。2026年モデルの新作コンフォートチェアは1980年代をイメージしました。1970年代の不安な社会から解放されるように、少し明るく感じる未来へ向けてデザインしました。今週は大阪、名古屋でコンセプト説明を行います。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:アメリカの生物学者のEdward Osborne Wilson(エドワード・オズボーン・ウィルソン) 1929-2021 右上:1984年のウィルソンの著書「バイオフィリア」下:アメリカ不動産サイトから。自然景観やグリーンを取り入れたインテリアはバイオフィリア理論からと紹介されています。ウィルソンが意図したインテリアとは違うとは思いますが、今のアメリカのインテリアを作る上で重要なキーワードになっています。
アメリカのNYや日本の都会のインテリアには緑の景観が無く、インテリアにカーブした家具デザインが使われるのもバイオフィリア理論からです。左:キドニーソファに2026モデルとして追加されるカーブが柔らかなコーナーソファの組み合わせ。右:アーム付きのソファとシェーズロングが追加されます。