COLUMN

2025.12.26 DESIGNER

ロサンゼルス巨匠建築の思い出

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.175
2025年も終わろうとしています。皆さまどんな一年だったでしょうか?当社にとって今年は設立から40年の節目で、2026年7月から41年目がスタートします。1985年設立から嵐のような毎年でしたが、仕事や人生観を変えるような仕事が何回かありました。その中でもカタログや雑誌広告用の撮影で、スタジオ撮影に立ち会ったことです。1980年代は紙媒体の広告が重要で、広告デザインと合わせ製品写真のクオリティが製品の売れ行きを決める時代でした。若い頃からスタジオ撮影に立ち会って、製品の見る角度や見せ方の重要性を知りました。それはプロダクトのレンダリング(スケッチ)で、かっこよく見せるフォルムバランスの勉強になりました。その後の撮影ではライティングから光で作る陰影で出す立体感、セット写真でのレイアウトのバランスなど、デザインの仕事に役立つことばかりで、毎回、本当に勉強になりました。

2007年から始まったアメリカ西海岸での撮影は毎回、冒険のようで、私自身のデザインにもっとも影響を与えました。アメリカでの撮影を始めるときに幸運だったのが、ロス在住の撮影プロデューサーの靖子さんとの出会いで、ファッションデザイナーや建築家、デコレーターやアートのことにも精通した靖子さんが選んだ家を、ロケハンしたり撮影に使用することができたからです。当社が長く続けていたお客様と行ったアメリカ西海岸建築ツアーも同様で、一般公開されている見せる施設でなく、人が住まういきた住宅や、実際に働くオフィスや使われている建築を見ることで、本当のいきたインテリア空間を感じることができたのが、今の私自身、仕事の基本になっています。まだiPhoneも出ていないGoogleマップもない時だったので、地図片手にレンタカーを運転し、40フィートコンテナに満載した荷物をフォークリフトで荷下ろし、仕分けからトラック積み込み、撮影機材の借り出しして、撮影場所ではオーナーが住んでいる住宅から家具を搬出して、当社の製品を搬入撮影し、終われば元どおりにしてクリーニングする作業は日本でも経験できないことでした。

先日、アメリカの建築家フランク・ゲーリーがお亡くなりになりました。ロサンゼルスのダウンタウンにある、ゲーリーの代表作であるウォルト・ディズニー・コンサートホールの撮影を思い出しました。ステンレス板のバラの花びらが開いたような建物で、近くで見るだけで胸が高鳴るような気持ちになり、内部に入るとダグラスファーの巨木をイメージした内装で、ゲーリー建築に触れながら、ここで撮影できればと思ってしまいました。アウディなどの車メーカーや有名企業が外観で撮影に使っていたことは知っていましたが、大規模な建築を借りての撮影は機材や搬入など人員も大変で、何よりロスを代表するような有名公共建築を当社のような小さな会社が借りることができるのかがいちばん心配でした。しかし、さすが靖子さん、撮影許可はすぐに下りました。それも全館で撮影可能になり、中のメインコンサートホールでの撮影も可能になったのは驚きました。撮影は搬入経路が長くセキュリティが大変で、メインホールではフィルハーモニーのリハーサル中で、その合間をぬっての撮影でした。

1987年にスタートしたウォルト・ディズニー・コンサートホールのプロジェクトは、当初石造りで計画されましたが安価なステンレス鋼に変更されました。それが、逆に特徴的な存在感を出す建築になりました。裏庭には多額の寄付したディズニーの奥さまリリアンの好きだったデルフト陶器の破片で作られたばらの噴水があります。うねるステンレスの板は最初は鏡面でしたが、近隣の集合住宅から反射熱のクレームがあり、バイブレーション加工し艶消しにされました。内部の通路にはその鏡面の名残が残っています。内部での撮影でメインホールでの撮影も許可されましたが、リハーサル中で機材撤去など時間に追われました。メインホールのパイプオルガンの前で撮影は初めてというスタッフに感心されながら撮影したことなど、本当に思い出深い場所です。LAにはゲイリー建築はいくつかあります。2022年にオープンしたディズニー・コンサートホール前にあるホテルのコンラッド・ロサンゼルスや、ベニスビーチにある巨大な双眼鏡のあるビルは街のランドマーク的な建築になっています。

LAのゲーリー建築はほとんど行きましたが、建築ツアーで行きたかったゲーリーの自邸に行けなかったことが心残りです。今年の1月末にロサンゼルス近郊での大規模火災でかなりのエリアが消失しました。Googleマップで見ると訪問した住宅は何件かなくなっていました。その中にノイト設計の住宅があり、貴重な建築が失われたのは非常に残念です。1月末に当社がカタログ撮影で使用した住宅の建築セミナーを開催する予定です。2025年も本当にありがとうございました。皆様良い年をお迎えください。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:手前が2002年開館したウォルト・ディズニー・コンサートホール。向こうに見えるビルは2022年オープンのコンラッドホテル。ゲイリー建築が並んで立っています。右上:ステンレス板がうねる外観で、薔薇の花びらを感じさせます。左下:コンサートホールのエントランスはダグラスファーの柾目突板が使われ空調の穴のある柱が巨大な樹木に見えます。右下:2265人収容のコンサートホール。座席のシートはカリフォルニア州のカラーが使われています。
左:メインホールで撮影のスタッキングチェアのイリス。リハーサル中で椅子など撤去するのに時間を要しました。一番大変だったのはピアノの移動で、元の場所に戻して調律料がかかりました。右上:ステンレスの鏡面板が残る通路で撮影。鏡のような反射は周りに迷惑だったのは分かります。右下:ミニホールでアルコの撮影。自然光が入る場所でした。