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2025.7.30 DESIGNER
インテリアと現代アートの源流は
AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.170
今年の2月、ロサンゼルスで撮影や取材でお世話になっていたYasukoさんがウエストハリウッドの自宅を売却し日本へ完全帰国されました。ご両親がお住まいだった埼玉のマンションに住まいを移されたのですが、長年住んだロサンゼルスの家にあったアートや家具をオークションで販売し、残したいお気に入りのアートや家具だけを日本へ持ち帰りました。日本での住まいはご両親が残されたマンションなのですが、そこにも医院をされていたお父様のアートコレクションが沢山あり、持ち帰っても壁に飾り切れないアートが沢山ありました。ロサンゼルスの自宅にお伺いしてる時から、瀬戸さんに家具のコレクションから差し上げるからと、1950年代の椅子を数点いただく事になり、帰国されてから車で取りに行きました。川口のマンションにはロサンゼルスから持ち帰ったお気に入りのアートが所狭しと置かれていて、飾れないアートが廊下の床に立てかけられていました。
医師だったお父様のコレクションも大変な物で、ベルナール・ビュッフェのリトグラフや絵画、1950年代に来日したアンリ・マチス本人から購入したという絵画など美術館級の絵画が沢山あります。その中にロサンゼルスのYasukoさんのコレクションが加わりました。そのコレクションはインテリア関係者なら垂涎のル・コルビュジエの手書きアートやターナーの絵画など、、数だけでなく質も美術館級の質と数のコレクションになりました。私には家具だけでなく、新しく移転した六本木本社ショールームの為にと、何点かのアートやカメラマンのポートフォリオやヴィンテージのテーブルスタンドランプなどをいただきました。その中にはロイ・リキテンシュタインのリトグラフの三連作品があります。そのリトグラフの額装を修理とクリーニングし、ピクチャーレールの工事を行い、六本木本社のミーティングルームのバックカウンターへ飾りました。
このリトグラフはYasukoさんがアメリカの画廊で購入した物で、1964年にリキテンシュタインが油彩で制作した「 As I opened fire/アズ・アイ・オープンド・ファイア」という作品を基にしたリトグラフで、航空機による戦闘中の短い数秒間を描いたこの絵画は、物語を表す3つのパネルに基づいていて、リヒテンシュタインの最も野心的な作品で視覚的に対立する要素を奇妙に融合させた作品と評されました。いただいたリトグラフ作品はオリジナル油彩とは違いますが、リプロダクションの印刷物ではなく、初版のリトグラフ作品のようです。リヒテンシュタインのオリジナルの油彩なら気の遠くなるような高額なアートになりますが、リトグラフでも価値はなかなかな物だと思います。作品のサイズも三連の作品が入った額は横幅が1.8メートルあり、飾るには場所を選びます。広くなった六本木ショールームの空間があればこの作品が映えるように思い飾る事にしました。
ロサンゼルスに訪問するようになり、住宅の壁面に何も飾られない白い壁だけという事は無く、大きな現代アートがバランスよく置かれ、インテリアの一部として使われている事が良く分かりました。ビバリーヒルズの住宅では美術館に置かれるようなサイズの奈良美智の彫刻が置かれたリビングや、ジェームズ・タレルの光のアートが庭に作られていた住宅など、アートが生活の中に溶け込んでいる事を知り、美術館の白い空間に置かれる物がアートと思っていた事が、アートは生活のインテリアの中に存在するという事に認識が変わりました。これはカリフォルニアスタイルとして庭とインテリアの融合というスタイルだけでなく、襖絵や屏風といった巨大なアートがインテリアの一部になっていた日本のインテリアスタイルまでもアメリカに持ち込まれた結果なのかもしれません。日本ではいつの間にかそのインテリア手法が忘られ、アメリカに持ち込まれたカリフォルニアスタイルで日本の本来のインテリアが進化していました。
日本で販売されるアートの主流のサイズは10号(530×455mm)と言われています。高校の美術部で描いていた油絵も8~10号がメインで何の疑問も持たずに決められたキャンバスサイズで描いていました。このサイズは今から思えば、ヨーロッパ絵画の肖像画や風景画から来ているのかもしれません。アメリカでも写真などは小さめの額に入れられて飾られますが、一枚だけということは無く、複数枚で壁を飾られます。今、海外では茶室に見られる禅スタイルの何も無い空間も人気ですが、本来、多くあった襖や屏風絵を使った日本の伝統的なインテリアスタイルの方が、アメリカのインテリアに浸透したのかもしれません。
8月お盆休み明けにミラノレポートを開催します。今年はミラノレポートはお休みする予定でしたが、お客様のリクエストが多く社内研修で行ったレポートをお届けすることになりました。ヨーロッパとアメリカ西海岸でのインテリアの作り方は少し違うように思います。今回は辛口が多いかもしれません。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)


2025.6.30 DESIGNER
家具レイアウトは快適性を左右します
AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.169
先日開催しました「家具のレイアウトと人間工学セミナー」に1300名を超えるお客様に参加いただき、当社で開催したWebセミナーでの最多参加者となりました。終了後のアンケートでは沢山のみなさまに感想をいただきました。いつも感想を書いていただくのですが、こんなに沢山のお客様から長文の記入をいただいたのはあまりなく、全てを拝読するのに半日かかりました。いただいた内容は「ストレスが無いレイアウト寸法と通れるだけのレイアウトは違う」「人が座った寸法を想定してのレイアウトが大切」「椅子やソファの定員でなく実際に使用できる人数が大切」「曲線家具が直線家具より有効に使用できる事が目からウロコでした」など、プロの方からの声をいただき、長年行ってきたスキルアップセミナーの中で一番やりがいのあったセミナーでした。
これまで家具の作り方、革の製造など素材について、インテリア写真の撮り方、家具の人間工学など、インテリア知識の一部となればと様々なスキルアップセミナーを開催してきました。今回のレイアウトセミナーは、コロナ禍中に当社スタッフが、お客様からいただいた平面図の家具位置に点線の場所に、指示された家具をレイアウトしてるだけの、理由や使い勝手を考えず、担当営業から言われた事をするだけの作業になっていて、意味も理由も考えないプレゼン用の図面を見て、社員教育をする必要性を強く感じました。実際の社会人になっての仕事は学校で教わる以外に実務を通して覚える事や、先輩たちから教えてもらい身につける事が多く、コロナ禍では現場に出る事も少なくなり、人との関わり合いも少なくなり、指導も不十分になります。その為、私自身も反省し社内勉強会を開く事にしました。
私自身、40年以上家具のデザイナーとして仕事をしてきましたが、会社の先輩だけでなく、ベテランのお客様から叱られたり教えられ、仕事を覚えてきました。家具のレイアウトもその一つで、家具デザイナーになりたいのに、レイアウトなんて平面に置くだけでしょ、と思っていました。しかし、実際に仕事をしていると、レイアウト次第でホテルや旅館などの宿泊施設の効率性、レストランでの快適性がリピートへ繋がる事など、家具デザイン以上に重要な仕事でした。また、人間工学的寸法だけでなく、国際的マナーでのサイズ決定などはお客様へのセールストークに繋がり、信用されるデザイナーと感じていただけるなど、本当に役立つ事が多くありました。レイアウトセミナーを開催する事を決めた際に、当社営業部からプロのお客様に失礼では?怒りを買うのでは?との声がありましたが、私自身、社外の大先輩から指導された経験からやるべきだと思い開催しました。
実際にセミナーをする事になり画像を作りながら、自分自身の経験値の事を見直す事になりました。人間工学的モジュールは学生時代に習った事ですが、様々な高さの家具との間など実践的なサイズについては、社会人になっての経験値で得てきた事が多く、改めて資料作成するとなると参考本が無く一からになりました。レイアウト資料を図面から作りながら改めて家具レイアウトの大切さを感じ、私自身も忘れかけていた事の再認識になりました。平面図で家具で埋めるだけだと使えない事が多く、ダイニングセットは、椅子を引いた状態でなければ座る事ができません。またソファやラウンジチェアなど低い椅子に座ると人は脚を前に出すのでセンターテーブルとの間は多く取る必要があり、ソファの座の高さによって隙間が変わります。どちらも人が使用する状態でレイアウトをする事が重要です。そのモジュールを決めるのは人間工学寸法で、なんとなくでなく、具体的なモジュールを示す事ができればお客様にも納得いただけます。
「曲線家具が直線家具より有効に使用できる事が目からウロコでした」は、レイアウトする場合には狭い場合ほど、デッドスペースを少なくする必要があり、狭い空間だからと通路や隙間をできるだけ少なくしてレイアウトすると逆にデッドスペースが増え使えないスペースが増えてしまいます。実際に人型を使うと視覚的に見やすくなり、L型のソファの角はデッドスペースで、コーナーをラウンドにするだけで人が座れるようになります。インテリアの流行だけでなく、ストレスの無いインテリアを作る為にも曲線家具が必要とされています。最近使う事の無くなった、テンプレートという樹脂板でできた手書き用の製図用品を手に取りながら、これを何枚もダメにして買い替えた事や、レウアウトを書く前にレストランやオフィスでも隣との距離を定規で決めてレイアウトをした事を思い出しました。次のセミナーもスキルアップのためのセミナーを企画します。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)


2025.5.30 DESIGNER
ビリオネアズ・ロウのインテリア
AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.168
先日、NHKの「ステータス」という番組でニューヨークの「Billionaires’ Row」ビリオネアズ・ロウのペントハウスの事を放送していました。ビリオネアズ・ロウは、ニューヨークマンハッタンのセントラルパークの南端近くにある住宅用の300メートルを超える超高層ビル群の事で、超高額レジデンスが並ぶ事から億万長者の列と言われています。そのビリオネア・ロウのペントハウスの最高額は360億円という事で、その最上階のペントハウスにディレクターが一晩過ごす為に奮闘すると言う番組でした。話題のニューヨークのビリオネアズ・ロウの番組なので見る事にしました。
番組内では、超高額住宅という事もありガードが固く不動産資料なども無く、住人に見せてもらおうとしても、不動産登記にも名前が掲載されないようにダミー会社になっていたり誰が住んでいるのかも分かりません。あきらめかけた時にようやく現地の購入希望の日系女性を紹介してもらい、同伴者として中を見る事ができるという内容でした。様々なハイエンドな物を取り上げている番組で、取材するディレクターは同じなのですが、Tシャツと野球帽の姿で、取材は無理だろうと思っていると、流石にハウスツアーの時にはスーツ姿で、TPOは分かっているんだと思いました。私自身も西海岸で住宅を取材する時はYASUKOさんの紹介で同伴するのですがアイロンの効いたシャツとジャケットを着て訪問します。
その番組では最高額の360億円の住宅を見る事はできなかったのですが、違うビルの80億円近いペントハウスには訪問する事が出来ました。超高層ビルでペンシルのように細長く、地震の多い日本では揺れが心配になります。エレベーターで上がる時に揺れるエレベーター内で「日本製のエレベーターでないので揺れますね」と日系女性の声で本当に揺れている事が分かります。案内人からは購入しても月の管理費と税金だけで7万ドル以上かかると聞くとディレクターはため息です。そして、それを安定的に支払う人でなければビリオネアズ・ロウの仲間に入れない世界と言われていました。先日、コラムに書いた西海岸のハイエンド戸建て住宅でも同様の経費がかかるので、アメリカの高額不動産の敷居の高さを感じました。
ペンシルよりももっと細長いビルで、狭そうに思ったのですが、ワンフロアは最大2戸で、上層階はワンフロア1戸か上下2~4フロアを占有する広い面積です。目指す部屋はエレベーターにはPHのマークがあるだけで最上階のペントハウスと分かります。エレベーターを降りると、どのビルよりも高い景色とセントラルパーク全体が見渡せます。北側に面したセントラルパークにはビルの影が長い影を落とし、自分がいかに高い位置にいるのかが分かります。目が眩みそうな高さに目を奪われながらインテリアに目を移すと、アメリカハイエンドならではのインテリアです。広い空間を埋めるだけの家具で無く、空間の中にコーナーごとに人の過ごす位置を置く、ゾーニングがしっかり考えられているようです。また、そこに置かれる家具は知っているブランドでは無く、ハイエンド家具とでも言うのでしょうか、流行にあまり左右されない落ち着きのある家具です。
柔らかなカーブした形のソファが空間の中心に置かれています。当社で3年前から展開しているキドニーソファのようにカーブしたソファが空間のメインと部屋のコーナーに置かれ、柔らかな雰囲気を出しています。2020年以降、欧米では曲線を使用した家具が多用されるようになってきました。これは、コロナ禍の息の詰まる緊張した世界から精神と感情に心地よい空間を作るために、バイオフィリックデザインという植物などの自然を感じさせる空間デザインに取り入れた事も一つと言われ、1970年~80年代の柔らかな家具が見直され復刻されている理由です。カーブした家具が生まれたのは1890年代からのアール・ヌーヴォーで、その後、1920年代~アールデコ、1950年代~ミッドセンチュリー、1970年代~ポストモダン、現代と曲線を基調とした家具デザインが精神を安定させ快適さを生む家具として使用されるようになりました。
一時期、忘れかけられていた曲線家具が近年に復活したのは、1970年代から多く使われるようになった現代ソファの基本になっている直線だけだったモジュラーソファに曲線の組合せが使われるようになったからです。広い空間の中心で存在感を演出したり、部屋の隅に心地よい空間を作るなど使いやすさも増したからかもしれません。当社のキドニーソファ/NC-075もモジュラータイプになり急に販売数が増加しました。空間の中心だけと思われていた曲線家具が部屋のコーナーで植物や照明と合わせながら設置すれば、柔らかな精神的に安らげる空間にする事も可能です。今回見た目が眩むような高さの超高層ビルからの緊張した景色を和げるような効果も考えたかもしれませんが、高さの恐怖感で緊張する空間に安らぎ感を出していました。 バスルームにも曲線のニッケルのバスタブが使われていたのも印象的でした。
ラウンジチェアも四角いデザインから柔らかな円形が人気になりつつある事も空間に安らぎと快適性を与えるからかもしれません。ホテルや旅館でも昔は馬蹄形の形を使ったのは空間の雰囲気作りだけでなく、動線などの通行性も考えてのことでした。近々開催するレイアウトと人間工学でも曲線家具を使ったレイアウトをお見せするかもしれません。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)


2025.4.30 DESIGNER
ミラノサローネとデザインイベントを憂う
AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.167
今年もミラノへ行ってきました。ロー・フィエラで行われる家具見本市のミラノサローネと隔年開催の照明展ユーロルーチェ、ミラノ市内で行われるデザインイベントを回ってきました。ネットで発信されるニュースや画像も多く、今年も沢山の所でトレンドセミナーとして開催される予定です。今回のコラムでは40年近くミラノへ行きながら正直な気持ちをお伝えしたいと思います。今年のミラノで行われたイベントはコロナ禍以降に広がった、入場制限と顧客のみを入場させる振り分けをする上位ブランドと、顧客データ収集のための事前入場登録させるブランドや展示会、大行列を産むだけのファッションブランドのイベントなど、徒労に思う展示も多く本来のワクワクするようなデザインイベントとは違ってきていました。今年のミラノサローネ来場者は302,548人(2024年370,824人、2019年386,236人)と昨年の87%となりました。それ以上にミラノ全体の人出も減っていると思うのはミラノホテルの最沸騰や渡航コストなどが、費やす時間に合わないと思う人が多くなってきたからではないでしょうか。そろそろミラノで開催されるというだけで行く時代は終わりにしないと、と感じたミラノでした。
その理由を少し話したいと思います。25年以上前のミラノイベントはフィエラ会場が市内中心地に近くその会場がメインで、世界中から集まるバイヤーと年間成約する売上のための展示会でした。当社でもミラノサローネへ出展したのは1989年で今から36年前でした。その頃は世界から主要ブランドが出展しており、見本市で新しいデザインを発表していました。そのミラノサローネを訪れると一同に集まったブランドと新作が見られる貴重な場所と時間でした。その時代はインターネットが無く渡航して視察するしかなく自分の目で見るかありませんでした。各ブースでは情報として紙のカタログを受付で申請してもらいます。その紙媒体は重く一日回っているとキャリーバックを持参しないと、とても持てませんでした。写真に関してもも気軽に撮れるデジカメやスマホなど無く、また各ブランド共、撮影に対して規制が厳しくプレスパスを持っていても入場で許可を取らないといけなく、情報自体が価値のある物でした。その時代から毎年訪問し、情報を社内共有していたので、自社の情報だけにするのはもったいないとお客様へのミラノレポートとしてセミナーを始めました。
ミラノサローネ時期に家具の展示会だけだったイベントが大きくなり、世界中から見学者が増えてくると、その期間にデザイナー個人の作品発表や企業PRのインスタレーションなどデザイン祭りのイベントが中心となってきました。今ではミラノ市内で行われるデザインイベントがメインとなってきました。そのイベントの規模や質もミラノに行かなければ見られない事で、世界中からの来場者が増え、そのためミラノ市内ホテルの宿泊費も高騰しはじめ、20年前までは2倍程度だったのが、3倍~5倍になり、昨年宿泊した中心から少し離れた場所にあるホテルは昨年一泊6万円だったのが、今年は9.5万円と、通常一泊1.5万円程度の部屋が6倍以上の金額になりました。ミラノ中心に近いエリアのホテルは期間中、一泊平均12.5万円以上で、ホテルの高騰ぶりは狂乱状態です。それをスタッフ同行で3部屋5泊以上はとても宿泊する事はできず、4泊に減らさざるえませんでした。円安もあり航空券と滞在費を入れると平常時期の4倍の予算がかかるようになりました。また、フィエラのサローネ、国際家具見本市の€56(9,000円以上)する入場料も展示会としては高価なチケットになります。
高騰した滞在費に見合う内容なら我慢できますが、国際家具見本市の出展を取りやめた会社が多くなり市内イベントの質も落ちてきました。国際家具見本市では、数年前からPoltrona FlouやCassina、B&B、Zanotta、Morosoなど有名ブランドは出展せずに市内ショールームだけになり、今年はMorteni&CやFrexformも市内ショールームだけになりました。Morteni&Cで話を聞くと、高騰する会場の出展費とブース工事費用を考えると市内にショールームを設ける事ができる。今後も多くのブランドが出展を取りやめるだろうとの事でした。出展者が減少した国際家具見本市会場ではMinottiやFlouの顧客のみの入場制限が、PoliformやLEMA(2/3のエリア制限)でも顧客のみの入場になり、まったく中にも入れず見る事もできないブースが増え、高い入場料を払って展示も見られない、入場しても触れない座れないでは家具の展示会として、いかがなものかと思います。増えすぎた市内イベントでは見るイベントを決めて歩かなければ回りきれず、人気ファッションブランドでは長蛇の列で、やっと入場しても時間に見合わない内容が多く、画像拡散を狙ったSNS映えばかりを意識した展示が多く、がっかりする事が多くなってきました。また、やっと入った中でもスマホ撮影を待つ人でよけいに時間がかかっています。スペインの某ブランドは原宿で開催していたイベントの方が百倍良かったと思いました。
ミラノサローネの国際家具見本市も会場での入場拒否への規制や、市内参加イベントでは展示の質を審査する事も主催者側が考えるべきで、ホテル宿泊料金の上限規制をミラノ市も考えないと、今年から始まった来場者の減少がより進むのではないでしょうか。展示会として本来の姿とイベントの質向上をさせて、インテリアを仕事とするプロユーザー寄りに考えたイベントになるように考える時期にきているのではないでしょうか。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)


2025.3.31 DESIGNER
モダン建築の修復とリノベーション
AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.166
六本木の国立新美術館で「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s-1970s」が開催されていいます。20世紀にはじまった住宅をめぐる革新的な試みをモダン・ハウスを特徴づける7つの観点から再考した展示会で、モダン建築を代表する14邸の写真や図面、スケッチ、模型、家具などが展示されています。訪問した事のある住宅も何軒かあり、建築家のスケッチなど見応えのある展示会でした。その中の一軒のピエール・コーニッグのケーススタディハウス#22のスタール邸も訪問した事のある家でした。スタール邸の写真が撮られた時代が違うのかインテリアの見る方向によって、インテリアと置かれる家具が変わっているのが少し残念でした。ピエール・コーニッグを有名にしたのはフォトグラファーのジュリアス・シュルマンが1960年に撮影した写真で、その中のスタール邸は世界で一番有名な住宅と言われるようになりました。そのインテリア写真を使えば良いのにと、、。
2006年、カタログ撮影のロケハンでスタール邸を初めて訪問しました。その際にスタール夫人から家の歴史や特徴や住み心地など、オーナーでなければ分からないお話を聞かせていただきました。雨や風の音や上がりやすい室温など不満はあるが、それを越える眺望の良さが一番な事や、若い時にお金が無く自分たちで整地をした事など、さまざまな話をしていただきました。その時の建物はオリジナルの状態で、長年使い込んだ家具が置かれていました。その後、スタール夫人が亡くなられて家を長男が相続し有料で一般公開されるようになり、今は長女が管理されています。息子さんが相続して公開されてる時に訪問した時には、ハリウッドの家具店がスポンサーになり、モダンなリプロダクト家具に変えられていて、ジュリアス・シュルマンが撮影時に使用された物にすればもっと良く見えるのにと少し残念に思った記憶があります。スタール邸で特筆すべき点は、ロサンゼルスでは持ち主が点々とする事が多い中、オーナーが亡くなるまで50年以上住み続けた家は稀有な存在ではないでしょうか。
有名建築でも建築当初から有名だった住宅ばかりではありません。持ち主が変わるたびに、その時のオーナーによって改装がされ元の姿が無くなる事があります。先日、アメリカ西海岸建築セミナーで紹介したピエール・コーニッグ設計のケーススタディハウス#21、ベイリー邸もその一つです。ベイリー邸は心理学者のウォルター・ベイリーがピエール・コーニッグに依頼して1959年に建てられました。そのベイリー夫妻が1969年に東海岸へ移転後、次々に所有者が変わり改装が重なり無かった暖炉が設置されたり、1980年代にはキッチンの位置が変更され、元の設計が台無しになりコンセプト自身も忘れ去られていました。1989年にジュリアス・シュルマンのケーススタディハウスの写真がロサンゼルス現代美術館で「モダンリビングの青写真」と題された展示会で展示され、ほとんど忘れかけられていたピエール・コーニッグのカルフォルニアモダン建築への貢献が再認識されるようになり、このベイリー邸にも注目が集まるようになりました。
1997年ベイリー邸は、映画マトリックスで有名なプロデューサーのダン・クラッチオロが150万ドルで購入し、設計者のピエール・コーニッグに修復を依頼し1年かけて修復されました。修復は1959年当時の冷蔵庫や給湯器の代わりになる物を改造するなど時間がかかり、建てた倍の時間がかかったそうです。その際にはオリジナルから少し現代風に作り直された箇所もありましたが、家具はオリジナルにこだわり、特注で再現されたそうです。しかし、そのベイリー邸も2006年に韓国人女性アートコレクターに318万ドルで売却されました。その売却額はモダンハウスとしては2番目の高額で、建築がアートとして取引された転換期と言われました。その時に修復を依頼されたのはマーク・ハダウェイでした。その家も2016年には女優のアリソン・サロフィムへ販売されましたが、購入後、地盤沈下の対策と共に、よりオリジナルに近い修復を開始しました。その修復を依頼されたのは、またマーク・ハダウェイでした。彼は2023年にコラムで書いた、マルーンファイブのギタリストのジェームズ・バレンタインが所有し、今はブラット・ピットが所有するミッドセンチュリー住宅の修復も手掛けました。彼が数年かけて徹底的にオリジナルへ戻したベイリー邸は輝いているように見えました。
私が最初に訪問した2015年には韓国人女性アートコレクターが所有していた時で、修復が終わってオリジナルの状態にしたと聞いていましたが、2024年に再訪問した際には再度基礎から徹底的な修復がされていました。修復を再度依頼されたマーク・ハダウェイはニューヨークとロサンゼルスにヴィンテージファッションのレザレクションヴィンテージという店を持ち、世界的中のセレブに定着したヴィンテージの流行りを作った店としても有名になりました。今はヴィンテージ住宅の不動産業でも成功し、不動産修復士としても活躍しています。彼の修復方法は徹底してオリジナルにこだわる事です。改装や増築された箇所は元図面に基づいてオリジナルに戻され、竣工当初に入れられていた家具や置かれる小物まで、その時代に合わせた物が使われる事です。それも新しいリプロダクト物ではなく、その時代のオリジナル物です。1956年にジョン・ラトナーが設計した彼の自邸ハーペルハウスに訪問した事がありますが、完璧にオリジナルに戻され、置かれる同時代のヴィンテージ物やバスルームのヒーター、換気扇やコンセントやサッシや付いている鍵までその時代の物を使っていて、ガレージに置かれるポルシェ356も1959年の物が置かれていたのは驚きでした。
アメリカのオリジナルにこだわるのは家だけでなく、デニムのヴィンテージも同じ事で、ヴィンテージの車もオリジナルパーツによって修復された物に価値をつけられ、新しく改造やリノベーションされた物より数倍の価値で取引がされます。車や住まいは現代の技術とパーツで改装された方が快適だとは思いますが、どこまでオリジナルかが、現在の高価格での取引基準になっています。今はなんとなく古びて見える物も50年以上経てば価値が付いてくるのでしょうが、30年から40年くらいを越えられるかが、時代を越えるデザインなのでしょうね。当社は設立40年です。40年目を迎える製品もありますが、あと10年でヴィンテージになればと思っています。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

