COLUMN

2025.2.27 DESIGNER

アメリカ不動産販売の常識

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.165
先日開催した5年ぶりのリアルセミナー「アメリカ西海岸セミナー」は各ショールームへ沢山のお客様にお越しいただきました。来られたお客様からは大画面でのセミナーはリアル感が感じられて良かったとの声をいただきました。やはり、PC画面やタブレットの画面より空気感も感じていただけたのかなとも思いました。なによりリアルセミナーではお客様の反応を感じられ、やりがいにつながりました。また、参加いただいたお客様にはセミナー後のアンケートに記入いただきありがとうございました。今回のセミナーでは、昨年取材した中から、プロ向けのインテリアショールーム、修復が終わったケーススタディハウス#21、ビバリーヒルズとベルエアのオープンルームをご覧いただきましたが、オープンルームで配布される資料が日本と違う事に興味を持たれた方が多くいらっしゃいました。

アメリカ西海岸セミナーでは、お客様から「説明画像に平面図を入れて欲しい」との声が多いのですが、アメリカの住宅販売のオープンルームで配布される資料では、日本でのオープンルームの広告や資料には必ずある平面図がありません。それは新築でも同じで、物件紹介のホームページ内も表示が無く、数十億円以上の住宅のオープンルームでも写真は沢山あるのですが平面図が見当たりません。これは、私自身も不思議に感じていた事で、カタログ撮影に必要となる撮影カット割用の平面図が必要なのですが、間取り図もあった事がありません。不動産会社の社長に聞くと平面図が必要とされないからという事でした。不動産購入で重要なのは・価格・床面積・場所・治安・良い学校区、あとは写真や現地で物件を見れば分かるからとの事でした。ほぼ全ての家では家具が置かれインテリアのイメージができます。家具無し物件でもオープンルームには家具を置いて見せるのが通常で、セントラルエアコンで洗濯機なども全て付いていて、生活するために新たに購入する物が少なく、アパートのように小さな部屋でどうやって家具をレイアウトするか考えるなど、よほどのことがない限り見取り図は必要とされないという事でした。

不動産のオープンルームで配布される資料にあるのは、ベットルーム数、バスルーム(トイレを含む)数、敷地面積、床面積、建築年で、リビングルームやダイニングルームの数は表記されません。ある程度の家になるとフォーマルとファミリーに分けて部屋も複数あり、シアタールームやワインセラーもありますが、、。その他にはガレージ内の駐車台数(屋外は含まれない)、CSOと明記された不動産仲介手数料%(2~3%)、その他に表記されるのは家のインテリアなどの特徴を説明した文章です。ホームページを見ると金額的には日本にあまり表記されない1平方フィート面積あたりの価格、課税評価額、年間税額などが表記されます。それに購入後のローン支払いする場合の支払いや住宅保険の金額が表示されます。住宅保険の表示はエリアや道路によって金額がかなり違うからで、先日の火災に遭ったエリアや、山の上などの消火活動に時間がかかるエリアでは高額になります。また、建物の建築年は日本のように価格に影響は無く、今の現状が重要との事でした。

今回のセミナーで紹介した住宅のベルエアの住宅では、建築:2022年、ベッド:7、バスルーム:10、床面積:9,040スクエアフィート(840平方メートル)、土地面積:0.68エーカー(832坪)、駐車場:7台(屋内2台・屋外5台)、販売価格:24,995,000ドル(37億5千万円)支払い関係では、30年ローン(固定6.52%)月額支払い:126,651ドル(1,900万円)、固定資産税/月額:24,578ドル(368万円)、月額住宅保険:8,332ドル(125万円)月々支払い合計:159,561ドル(2,393万円)と明記されていました。キャッシュで購入したとしても、固定資産税(年4,416万円)と住宅保険(年1500万円)を合わせて年間394,920ドル(6,000万円近く)が必要となります。これに月額数万ドルの電気代や水道代など、固定費だけでも気が遠くなります。固定資産税と住宅保険の高額なのには驚きますが、固定資産税は購入金額に対してなので、減ることも無く永遠とかかります。やはりビバリーヒルズやベルエアに住まうのはアメリカでも裕福な方々なんです。

不動産購入で組まれるローンはアメリカでは固定金利が90%以上で、変動金利でのローンが90%以上となっている日本の逆です。現在アメリカの住宅ローンは固定金利が6.5%と落ち着いてきましたが、一時期8.5%以上となっていて、数年前には10%以上にもなったこともあり、固定金利を選ばれるという事でした。ロサンゼルスは一時、住宅高騰と景気後退から不動産販売にかげりが下がっていましたが、先日のロサンゼルス山火事で裕福な方々が家を失い住宅価格が上昇しているそうです。アメリカの西海岸は裕福な方が多いという事なんでしょうね。これから日本の景気がどうなっていくのでしょうか。日本も頑張らないと!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

セミナーで紹介したベルエアにある有名ゲームクリエイターの住宅のホームページ資料です。建築:2022年、ベッド:7、バスルーム:10(フル8+ハーフ2)、床面積:9,040スクエアフィート(840平方メートル)、土地面積:0.68エーカー(832坪)、販売価格:24,995,000ドル(37億5千万円)の表示があり、支払い関係の欄では、30年ローン(固定6.52%)月額支払い:126,651ドル(1,900万円)、固定資産税/月額:24,578ドル(368万円)、月額住宅保険:8,332ドル(125万円)月々支払い合計:159,561ドル(2,393万円)と明記されていました。
アメリカ西海岸のオープンルームの資料。一軒の住宅を販売するためにハードブックのカタログを作成する事もあります。オープンルームで配布される資料はA4サイズの一枚のチラシ(右下)で2,995万ドル(45億円)のオープンルームでも同じで1スクエエフィートの金額とベッドルームとバスルームの部屋数しか表記はありません。

2025.1.31 DESIGNER

ロサンゼルス山火事と有名建築の安否

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.164
2025年が始まりもう一月が経ちます。今年のスタートは大統領の交代などアメリカからのニュースが多く入ってきます。なかでも1月7日に出火したロサンゼルス山火事のニュースが大きく報道されました。今回のロサンゼルス山火事はロス市内だった事もあり、お客様からYASUKOさんの事やツアーで訪問した住宅の安否など、たくさんお問い合わせをいただきました。アメリカ西海岸レポートでロサンゼルスの住宅を20年近くレポートしてきたので、いつもセミナーを聞かれている方も気になっているかと思います。ロサンゼルスの山火事はパシフィック・パリセーズだけでなく、パサディナやロサンゼルス北部のキャスティークエリアでもあり、キャスティークでは現在も延焼しています。今回の火災では消失面積は山手線内の2.5倍、12300軒以上の住宅が消失したそうです。

ロサンゼルスのウエストハリウッドの山に自宅があるYASUKOさんは、完全帰国に向け自宅を売りに出していて、9月から購入者が決まったのですが、銀行ローンがなかなか降りず、1月5日にようやく入金があり引越し作業をすると聞いていました。1月9日に新年の挨拶回りをしているとYASUKOさんから電話かかってきました。いつもの電話がかかってくる時間ではなかったので驚いて出ると、裏山から火が出たとの事で火災の避難命令があり友人宅へ避難しますとの事でした。その日の朝にLINEへ送られたサンタモニカ辺りの写真で火災の煙を見て心配していましたが、YASUKOさんの自宅のあるウエストハリウッドでも火が出たという事で本当に心配になりました。YASUKOさんはロンドンからロサンゼルスへ移住した時の最初の家を今回と同じような山火事で失っていて、その時に全てを失っていて火災の怖さを身に染みていると聞いた事があります。また、数年前のマリブの山火事の際には当社のカタログ撮影でお世話になっているフォトグラファーのドミニクさんの広大な自宅が火災に遭いお見舞いに行き、焼けこげた建物を見たので他人事とは思えません。

ウエストハリウッドの山火事はすぐに鎮火され、YASUKOさんは避難の翌日には自宅に戻れたと連絡がありましたが、建築ツアーや今回の西海岸レポートでも取材に、ご協力いただいた不動産会社社長のブレアさんの自宅がパシフィック・パリセーズにあり、今回の火災で消失しました。今までカタログ撮影やロケハン、取材などで200箇所以上西海岸を回りましたが、今回の火災エリア内にある行った事のある建物は20箇所以上ありました。その中で撮影で使用した建物は5箇所ありオーナーの顔が浮かびます。火災エリアの地図を調べてみると山火事の境界にあるゲッティセンターやゲッティヴィラや、イームズハウスなど有名建築はギリギリ消失を免れていました。ゲッティヴィラは敷地内まで延焼しましたが、建物への類焼は食い止めたようです。火災消失エリアにある住宅の中で思い出深い住宅は何軒もあります。

もっとも思い出深いのは2014年に訪問した音響技師のパー・ハルバーグさんの家です。当社の建築ツアーでお客様をご案内したのですが、スウェーデン人の彼の家はゲッティヴィラのすぐ近くにあり、山の際にある景色の素晴らしい場所でした。書斎に案内されて驚いたのは沢山のトロフィーの中にアカデミー賞のオスカー像が置かれていた事で、それも3本置かれていました。1995年ブレイブハート、2008年ボーン・アルティメイタム、2013年007スカイフォールで私も思い出に残る好きな映画だったのでびっくりしました。その彼がトロフィーをみんなに持たせてくれ、ハリウッドのお土産屋さんで売っている軽い物でなく、ずっしりしていて、アカデミーの受賞式で渡されるのはダミーで、終わってから家に届けられるので本物はこれなんだよと手渡してくれました。映画業界で有名な人が日本から来た私たちに気さくに接してくれた事がなにより嬉しく思いました。彼の奥様やお子さんが無事なのか心配です。

1940〜50年代の住宅が多く残るこのエリアには巨匠建築家の設計した有名建築も多く点在しています。特にモダン建築のリチャード・ジョセフ・ノイトラ建築の住宅は建築的価値だけでなく、ポップアートと同じようにアート作品と同じように高額価格で取引され、その価値を高めるために、コンセントやスイッチ類までオリジナルにこだわり建築当初の姿に戻されるレストレーションが行われます。それも一般公開される建築でなく、一般住宅として生活に普通に使われています。太平洋を望む海岸近くにあるノイトラ建築で有名な1949年のフリードマンハウスもその一つで、現在のオーナーはワーナーブラザーズの副会長だったジェフ・アヤロフさんで、ご家族でお住まいになっていました。建築ツアーで訪問した時に奥様のマーティーさんとジェフさんが迎えていただきました。ジェフさんは坂本龍一との仕事で何回も来日されている親日家で、家を購入した理由と置かれるコレクションの説明をしていただきました。

ジェフさんのお父さんは家具工場を経営していてノイトラ建築の家具を製作しており、この家もお父さんの工場で製作していて子供の頃から憧れていた家だったそうです。プリンスやマドンナのプロデュースで成功した後、念願のこの家を購入できたそうです。この家に使われている家具は全てオリジナルで、ジョージ・ナカシマやプルーべの家具などありました。一番驚いたのはリビングの暖炉の上にウィリアム・エグルストンの代表的な三輪車の写真で、その写真はカラーフィルムで撮影した写真では最高金額の57万8千ドルで、クリスティーズのオークションで落札された物でした。その他、フランスのコルビジェの自宅にあったサイドボードや、ジョン・レノンの手書きの作詞の便箋など、家だけでなく、置かれる物が貴重すぎてため息が出ました。そのアートや家具類があったノイトラ建築も火災のエリアにありました。庭から見たノイトラ建築の姿がもう見られないのは非常に残念です。

今回の山火事では住宅火災の事が大きなニュースになっていますが、家にあったアートや調度品など貴重な文化財も失われた事と思います。それだけインテリアとアートは近い関係のインテリア作りがされている事も知る必要があります。アメリカのロサンゼルスではホテルが高騰、賃貸の家賃高騰が始まっていて住宅価格も上がっているそうです。グーグル社やアマゾンスタジオやアップル社の新社屋進出で家賃が高騰しているロサンゼルスでは住宅を手にいれるのも難しくなっているそうです。YASUKOさんの完全帰国でロサンゼルスでの取材が難しくなり、今回のアメリカ西海岸セミナーで一旦お休みとなりますが、何か他の海外建築レポートをしたいと思っていますので、お楽しみに!
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

1960年に建てられた音響技師のパー・ハルバーグさんの家。左上:プールがリビングの前に伸びる住宅で新築に見えました。右上:マリブの山は乾燥していて住宅地以外は乾燥地帯で、火がつくと燃え広がる低木と草の山です。左下:パー・ハルバーグさんの書斎の棚の中に沢山のトロフィーが置かれていて3本のオスカー像が置かれていたのには驚きました。右下:パー・ハルバーグさん。オスカー像を持たせてもらい記念写真を撮りました。本物のオスカー像を持った事のある人も少ないのではないでしょうか
1949年に建てられたフリードマンハウス。左上:サンタモニカの丘に建つ家で大きな芝生とリュウゼツランに囲まれた家で軒先の照明がノイトラ建築の特徴でした。右上:海側の庭とプールのある中庭がスライド扉で風を通す事ができてエアコンいらずの住宅です。左下:ジョージ・ナカシマのオリジナル家具が置かれ、暖炉の上には有名な三輪車の写真がかけられていました。当時6,000万円の写真と聞いて驚きました。右下:赤と緑のサイドボードはコルビジェの自邸の階段下にあった造り付けのキャビネットだったそうです。世界中から貴重なアートが集められていました。

2024.12.26 DESIGNER

視覚から物理的感覚へ

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.163
2024年も終わろうとしています。皆さまにとってどのような一年だったでしょうか。私自身は新六本木本社オープニングも終わりほっとしています。毎年、年末に今年が一番忙しかったと思うのですが、今年もその年になりました。また、人間は何歳になっても成長する事を今年も感じる事ができ、生きている実感を感じました。オープニングイベントで新六本木ショールームへ来られた方に、こんなに広いと思っていなかった、、。こんな良い場所が六本木駅のすぐ近くにあるとは、、。ここまでのショールームと思っていなかった、、。と、驚きの感想が聞かれました。日頃、協力いただいている取引会社の方々にも驚かれたので、当社は普段からどんな風に思われてたのか心配と嬉しさが混在した気持ちになりました。

新六本木ショールームではプロユーザーのために、ニュートラルな空間を目指し、作り込みしすぎない空間に抑え、ダイニングシーン、リビングシーンを他の製品に左右されず見る事を考えたショールームです。シンプルな空間の中でも見る方の想像で空間を感じていただけるかなと思います。こだわったのは製品を引きで見る事です。アメリカ西海岸でカタログ撮影のロケハンする際に重要な事は撮影に必要な引きです。引いて製品を見る空間にこだわりました。今はなかなかショールームに来場するお客様が少なくなり、画像だけで判断されて決まる物件が多くなっています。タブレットやスマホでもホームページ画面からは製品の表面を見ていただけますが、実際に座った感覚や座った姿を感じる事はできません。私自身は物を選ぶ時に画像だけでなく、実際に手で触れたり身体に感じる感覚や香りも大切にしたいと思っていまます。

先日、愛車を点検に出したのですが代車がタッチセンサーだらけの車でした。私の車は一世代前で物理的ボタンとタッチパネルの混合ですが、最新の代車はセンターの大きなディスプレイモニターとハンドルに付いている操作ボタンも全てタッチセンサーで、何を触っていいのかすぐには理解できず、ラジオも付ける事ができませんでした。サンルーフの開閉もスライド式のセンサー、音楽の音量も指を滑らせるセンサー式で、運転しながらの微妙な調整が出来ません。なによりラジオのチャンネルを変えるにもラジオ画面を呼び出して、画面を見ながら触らないと変えられません。エアコンの調整も同じで、、五感の触覚や感覚が役立ちません。

最近はスマホのようにタッチパネルで操作する事が多くなっているので、その操作に慣れている人はいいのかもしれませんが、慣れない初めての車で視線を前後に集中しながらの運転が、パネルに触るために目線を外さないと操作ができないのは感心しません。運転しながらエアコン下げたり上げたりするのは普通の事で、道路のうねりや段差で揺れる車内でタッチセンサーを上手く操作ができません。助手席の人に操作してもらうなら別ですが。代車を運転しながらこんな車には乗り換えたくないな、、と思いながら運転していました。ふと考えたのはこの車は何年持つのだろう?スマホでも10年使える物はないし。パソコンも5年程度で買い替えないと故障が頻発します。半導体センサー満載のタッチ系の操作盤の寿命は短いんだろうなと思いました。

自動車ではヨーロッパの高級車から、デジタルタッチパネルから手動の物理スイッチへの回帰が始まっています。私が所有している1962年製のカルマンギアは今年で62歳の私と同じ年齢ですが、必要パーツを交換しながら今でも元気に走る事ができます。それは半導体など電子系のパーツが一つもついていない全てが物理的な機械だからです。機械式時計はメンテナンスしながら一生使えますが、機械式の物は高級な趣向品になりつつあります。時計でいえば、1970年台デザインのデジタル液晶の物が若者に人気になっているようですが、私も若い時に液晶腕時計を使った事がありましたが、液晶の寿命が10年程度で文字が消えて使えなくなりました。スマホと同じ消耗品として使うなら良いのですが、長く使う事を思うとメンテナンスのしやすさや簡素な構造が大切です。

新ショールームでは新しい照明システムと合わせ、中庭の光を感じていただける空間です。歩きながら五感で当社の家具を感じていただると思います。そのショールームで休止していたセミナーを再開します。コロナ禍で4年間ウェブセミナーをしていましたが、お客様への一方通行だけの配信で私自身も反応が感じられないセミナーでした。新六本木ショールームではセミナー用の新しい高解像度のプロジェクターも備えていますので、大画面でリアルな空気感も感じていただけると思います。新ショールームにまだ来場されていない方は、この機会のぜひお越しくださいませ。2025年が皆様にとって良い年になりますように。
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

上:メルセデスベンツEQSの運転席。全てがタッチセンサーで物理的スイッチは一つもありません。ハンドルのボタンに見える物もタッチセンサーでラジオのボリュームを調整するにも慣れが必要で少しの上げ下げができません。左下:今、話題のイーロン・マスクの率いるアメリカの電気自動車、テスラ3の運転席。タブレットのようなタッチパネルが一枚あるだけで、全ての操作はこのパネルだけで行います。本当に味気ないインテリアで、車はPCと同じ電気製品との考えでしょうか。右下:1962年式のカルマンギア。半導体は一個も使われていない車で、ノブを回すか引くの物理スイッチしかありません。製造されて62年経ちますが、メンテナンスして今でも元気に走ります。
左上:芋洗坂の道から見たショールームです。みなさん中庭の向こうに見えるので、六本木駅近くにこんな空間があった事に驚かれます。右上:ショールームの通路の両脇にはダークグレーの柱にがあり部屋が両側にあります。700平米210坪の広さに皆さん驚かれます。左下:高さ2,600のW6,000のリブガラスの吊りスライド扉のミーティングルームを設けました。右下:各ブースにはリビングシーンとダイニングシーンを置きました。W6,000×D4,000のラグが敷かれます。

2024.11.30 DESIGNER

広尾から六本木へ

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.162
六本木の新本社ショールームの工事も完成間近です。7月16日に物件情報があり、9月5日に契約してからインテリア設計、10月1日からの工事開始でしたので、11月末完成が可能か本当に心配しました。多くのお客様からはこの時期にその短期間で完成までできるのは奇跡ですねと言われましたが、なんとか12月12日のオープンする事ができそうです。広尾の倍以上の面積のある六本木新本社が3ヶ月未満で完成できたのは、関係会社、工事会社、現場の職人さん達のおかげだと本当に感謝します。

1985年に創業し15年過ごした新橋から、2000年に広尾の地へ移転してからもう25年が経とうとしています。最初の新橋ショールームは太陽の光が全く入らない倉庫を改装したNYのソーホーのようなショールームでしたが、移転した広尾は一棟建てでした。うっそうとした木々に覆われた古びた建物でしたが、自然光の入る素敵なショールームになりそうな気がして移転を決意、内装設計から始めて広尾でも4ヶ月以上の時間がかかりました。デザイナーとして理想の仕事場とショールームを求め現地計測から入りインテリア設計を行いました。木漏れ日の入る仕事場は理想的で、この広尾での環境が当社の製品の創造の再出発となりました。ここでは上質さをテーマにしたネオクラシコブランドや、カリフォルニアスタイルのエーモードブランドが生まれ、自分自身のクリエイティブな部分を自然光の中で作ってきました。

移転した広尾ショールーム本社は渋谷区でしたが建物の南側に竹林があり、春には筍が生え食べる事もできました。日本でも高額な場所に生えた筍を食す機会はそうはないかと思います。一年を通して笹の葉が揺れる木漏れ日が事務所に入る日差しが心地よいオフィスで、3階までのショールームまで日陰を作ってくれていました。春は明治通りの桜並木が気持ちよく、その後には会社前の日赤通りの両側に植えられたツツジが赤い花を咲かせて閑静な住宅街に彩りを添えてくれていました。夏には会社前の大きな樹木が道路に日陰を作り会社前の花壇は緩い坂を上るお年寄りのお休み場所にもなりました。秋には植栽にある2本のマテバシイが沢山のどんぐりを道に落として、子供達が通学でどんぐり拾いをしハロウィンではお菓子をもらいにショールームを訪れました。冬のクリスマスシーズンには会社の吹き抜けに大きなツリーを飾り、外部の植栽にはイルミネーションを飾ると、前を歩く近所の方から、毎年本当に綺麗ですねと声をかけられました。

広尾では一年を通して季節の移り変わりを感じる事ができて、オフィスビルの中では感じる事のできなかった時間を与えてくれました。近所付き合いも少しずつ増え、入居時には工事車両など苦情の多かった裏のご主人でしたが、いつのまにかお中元やお歳暮のお裾分けをするようになり、エーディコアさんならいつでも前に車を停めていいぞと言われるようになりました。朝の掃除では道路掃除をしていると声をかけられるようになり、近所のとんかつ屋の女将さんからは毎朝みなさんで掃除をされてるね。本当にご苦労様と言われた事もありました。大雪の時は社員総出で、会社の前から道の上下と路地の左右まで人が歩けるように雪かきをして感謝されました。

しかし、前回のコラムでも書きましたが、20年以上経つと徐々に近所の方々も居なくなり、賃貸に変わり街の風景も変わってきてしましました。この広尾本社は自社ビルではなく賃貸です。本当は購入したかったのですが、バブルの負の遺産があり、売るに売れない事情があるという事で、ずっと賃貸のままで過ごしてきました。その広尾本社の建物も7年前に竹林が排水管を壊したという事で撤去され、南側の日陰が無くなり、近年の酷暑でエアコンが効かなくなりました。建物の老朽化もあり、見た目には本当に綺麗な状態の建物なのですが、いよいよ移転という事になりました。今、この広尾に来てから過ごした時間と懐かしさを思うと辛くなりますが、新しい六本木へいよいよ移転です。

今度の六本木は前庭があり、少しだけですが四季を感じられるような草木を植えました。ビルのオーナーや管理会社の方々も良い方ばかりで、これから新しい地で新たな出会いができるように感じています。12月12日からオープンとなります。みなさま是非おいでくださいませ。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

新六本木本社ショールームはビルの一階ですが、前にテラスがあり自然光が優しく入ります。広さは広尾の倍の広さがあります。
2000年の春に内見した時の広尾のビル。南側に竹林が生える3階たての建物でした。その頃の社有車の初期型のメルセデスベンツのAクラスが懐かしい。

2024.10.30 DESIGNER

インテリアとつながる庭

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.161
新ショールームの工事も12月のオープンに向かって佳境を向かえています。住所は未発表なのですが看板見たよとお客様からお声をいただいています。広尾の一棟建のビルは庭付きの樹木に囲まれたショールームでしたが、新ショールームは六本木のビルの一階フロアで専用庭はありません。その為、この物件を借りるか決めかねていました。新ショールーム本社の場所はビルの中庭からアプローチを抜けて入ります。その中庭はメンテナンスのしやすさから作られた植栽でビル側の管理エリアです。しかし、せっかくのアプローチとショールームの中から見える中庭が素敵になれば良くなりそうな気がして、入居希望条件でビル中庭の手直しを当社でやらせて欲しいと申し入れました。

ビルオーナーにはビルの植栽を自前でやらせて欲しいと言うテナントは初めてと驚かれましたが、許可をいただける事になり契約となりました。12月初めにオープンなのですが10月末までが植物の根付け時期限界なので11月になる前に植栽施工を行いました。ビルの中庭は地階に駐車場がある場所なので植え込みの土はとても浅く、通路を仕切るためのプランターポットが多く使われていました。オーナーに許可いただいたレイアウトとイメージ図を基に植栽会社の方と打ち合わせをして植物選定をして工事を行いました。植栽会社の担当者はとても若い方でしたが植物が大好きな方で、作業現場でもベテランの職人さんと一緒に作業をして手際よく草木をレイアウトしていきます。最初は心配でしたが、仕事ぶりの良さから任せる事に決めて見ていました。植栽の難しさは植付けから1年以上経た姿が完成になるので、それを予想できるかで、完成した庭は今は寂しいかもしれないが、来年の春には素敵になりそうな気がする庭になりました。

私も植物に触るのが好きなので立会いながら作業を手伝ったりしていました。その日は午後から冷たい雨の降るあいにくの天気でしたが、雨具を着ていても濡れながら黙々と作業する姿の職人さんはカッコ良いな〜と思いました。プランターポットに植えられていた椿など元気が無いなと思っていたら、ネキリムシと言われるコガネムシの幼虫が沢山いて根が食べられています。土を入れ替え薬を入れながら植え付けし、シンボルツリーを支える地下主柱など入れ植え付けて、最後は雑草を取りやすくするマリチングという砂利を入れて完了。掃除が終わって最後に確認して話をしていると、依頼者が植物が好きな方だと作業者も嬉しくなりますと言われました。依頼者自ら一緒に濡れながら作業する方はいませんと、、。しばらくは毎日の水やりと枯れ葉や草の手入れは当社が行うのですが、今までの広尾ショールームではそれ以上の手入れをしていたので苦になりません。来年の初夏に向けて中庭を育てる事も楽しい時間になりそうです。

アメリカ西海岸でカタログ撮影するようになり、カリフォルニアスタイルの住宅は日本が起源で、モダン住宅に使われる大きく開かれる引き戸と庭と融合したインテリアは、日本建築からヒントをもらったシンドラーやノイトラがカリフォルニアスタイル建築として広げていった事を知りました。日本では部屋から庭を愛でるために大きく窓が開け放たれます。また、借景として風景や近隣の景色を取り入れて変化ある豊かな空間にします。取材で訪問したロサンゼルスの様々な住宅では庭と一体になったインテリアの住宅を沢山見ました。緑豊かな街並みにあるモダン建築は自己主張が強いと思われがちですが、実は他の住宅への借景になる為なのか、景色の一部になるように周りの植栽にも気を使う住宅が多いように思います。住宅の中のインテリアのしつらえも素晴らしいのですが、部屋に入ってインテリア空間から見える庭と景色と一体になった景色が素晴らしいのです。

新六本木ショールームでは展示スペースから中庭が見えます。庭とインテリアの融合が上手くいくかは窓の養生を取らないと分かりません。12月のオープン時にはまだ植栽が本来の姿にはなっていないかと思いますが、来年の初夏には素敵な景色が広がっていると思います。これから新ショールームの工事も追い込みになります。お客様にインテリアをイメージしやすいショールームに設えますので、お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:2017年に撮影したサンタモニカに建つ1950年代に建てられた住宅。FOX TVの社長の住宅でエクレクティックスタイルのインテリアでプールが印象的でした。右:2013年に撮影したハリウッド俳優のエージェントの住宅。ネオクラシコのソファセットを撮影した部屋はプライベートな部屋で裏側です。裏庭まで丁寧な植栽が作られていました。
左上:ショールームに面した中庭です。左下:多くの草木を持ち込んで1年楽しめる植物を選んでいます。日当たりや水捌けの好みが同じ程度の草木を選ぶ事が必要です。右上:ポットに植えられた椿は根がネキリムシ(黄金虫の幼虫)にやられて弱っていました。ポット内の土を出して水捌けのよい土を作って植物を入れます。右下:雨の作業は大変です。