COLUMN

2021.5.31 DESIGNER

趣味の時間

AD CODE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.120
10年以上前に北欧デンマークを旅した時のことでした。家具メーカーや老人ホームなどを回って、デンマーク人の余暇の使い方に驚いた記憶が蘇っています。ある大手の家具工場へ行った時に3時が帰宅時間と聞いて、会社としてよくやっているものだと驚きました。3時に帰って家で何をするんだろう?と聞くと、ヨットやサイドハウスを自分で作っている人が多く、余暇を楽しんでいるとの事。税金は高く物価も高いので、貯金はほとんどしないと聞いて、将来心配ではないの?と質問すると、国に貯金していて老人ホームなどに入れば大丈夫だしと。訪問した老人ホームではお洒落した老人が幸せそうで、そこで介護している方々も皆さん笑顔で裕福そうです。なぜ?と聞くと介護している人が幸せでないと、介護されている人が幸せにならないからと、、。なんだか羨ましく思いました。

私自身、夜遅くまで働く毎日だったので、余暇といっても週末に少し車のメンテナンスをするのが精一杯で、羨ましいというか、そんな日はリタイヤするまでは来ないなと思っていました。しかし、このコロナ禍で去年から出勤時間を朝早くし、勤務時間を時短にして4時半帰宅になりました。テレビを見て過ごすにも見るべき番組がなく、古いオートバイ(バイク)のメンテナンスでもするかと、ガレージで置きっ放しになっていたバイクを出して、毎晩のようにバラして組み立てをしました。週末の空いた時間でやるのはメンテナンスと言われる整備が中心ですが、毎日となるとレストア作業までするようになり、2台あるバイクも新品のようになってきました。平日の夜にガレージで作業、週末は調子を見るための試乗となり、キャブからエンジン、電気系、足回り、ブレーキまでバラして組み直しました。ピカピカになり調子良いバイクを見ていると、ふと、デンマークで見た余暇の使い方と同じじゃないかと、。

撮影に訪れているロサンゼルスでも、訪問する家のオーナーの多くは朝早く出社して、夕方早く帰ってくる方が多く、大きなガレージで古い車やバイクを直して週末に乗ると聞きました。マリブの海岸線にあるバイカーの聖地のネプチューンカフェでは毎週末、強面のバイカーがピカピカのバイクで集まってきます。怖そうな人達の多くは普段はビジネスマンで、自分で組み上げたバイクを自慢しに来ているそうです。その時も羨ましく思ったものです。日本では今、芸能人や芸人の方が旧車の絶版車と言われる古いバイクに乗るのが流行っているようで、SNSやネットニュースで芸能人が自慢しているのを見かけるようになりました。10年以上前はハーレーが多かったのですが、今は1970~80年代の絶版車で少し鈍臭い感じのバイクが多く、他人が乗っていないバイクが人気のようです。あまり人気が無いバイクはパーツが無いので修理や維持は大変なんですが、、。

私自身、古いバイクや車に乗っていますが、30年以上経た車体のパーツは手に入らず、自分で直すしかありません。ネットオークションでパーツが売られているのですが、写真だけで判断して購入すると失敗する事があります。昔は解体屋がどこでもあり、自分の車やバイクのパーツを山になった廃車の中から取り外して買ったものでした。バイクのパーツはメーカーにもよりますが、生産終了後10年程でパーツ在庫が無くなります。でも、助かるのは社外品と言われるパーツの存在です。そのほとんどが海外製で古いバイクや車を大切に乗ろうとする文化がある国のパーツが多く、以外にアメリカ製のパーツも多いんです。私の乗っている1962年製のカルマンギヤもパーツが沢山出ているので、助かります。ヨーロッパではパーツ購入だけして自分で修理できる家電が人気と聞きました。ネットニュースで日本の高級腕時計のパーツ保存が10年と出ているのを見て、日本も修理しながら使う文化がもう少しで出てくればいいのにと思います。

カーボンフリーと言われ、古いバイクや車は公害を撒き散らしているように思われますが、車検時に排ガス検査も通らないといけません。物を長く使う事も持続可能な社会ではないでしょうか。当社は廃盤が無いので、36年前の製品もメンテナンスが可能です。コロナ禍で大変な世の中ですが、自分のために使える時間ができたように思います。皆さんも今までと違う時間の使い方をして、コロナ禍の不自由な時間を自由に使ってみませんか。次回のWebセミナーは人間工学の話をしようかと思っています。椅子やソファの人体に合うサイズなどお話しする予定です。お楽しみに!
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

マリブにあるバイカーの聖地ネプチューンネット。シーフードがメインのカフェで世界中からファンが集まります。週末になると自慢のバイクに乗って強面の人たちが多く少し怖く、初めてだとなかなか中に入れません。どのバイクもカスタムされてショー用バイクのようです。フードはクラブコロッケが有名でフィッシュアンドチップスなど美味しいです。
左:1978年のVESPAでスモールヴィンテージと言われるタイプです。タイヤ交換やホイール塗装を行い、ボアアップ、ビックキャブやチャンバー取付、強化クラッチ、ハイギヤ、ブレーキ交換、電装系も新しくしてほぼ新車にしました。右:1988年のヤマハXV250です。エンジンの磨きと白錆が出ていたアルミパーツの磨き塗装、キャブレター、ブレーキやサスペンションのオーバーホールを行い、転倒して傷になったガソリンタンクのデカールは開発の富所君にカッティングシートで作ってもらい貼り直しました。ヤマハはパーツ在庫保管年数が長いので、消耗品はまだ手に入ります。どちらも手に入れて30年以上経ちますが調子は最高です。今は医療機関に迷惑をかけてはいけないので本気乗りはしていませんが、、。

2021.4.28 DESIGNER

住みたい家

AD CODE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.119
先日、第93回のアカデミー賞の発表がありました。今年の作品賞はノマドランドが受賞しました。最近のアカデミー賞の受賞作品は社会的な問題作や、政治的な背景で受賞する作品が多く、娯楽として楽しめる夢のある映画が少なくなっているように感じるのは私だけでしょうか、、。高校生の時に映画部だった関係で、多くの映画を見て海外のカルチャーに出会い、スピルバーグやルーカスの映画では最新映像に驚き、名画座では古い映画のファッションやインテリアにうっとりしました。社会人になり2003年からアメリカ西海岸でカタログ撮影をするようになり、映画産業と使われる住宅の関係を知ることになりました。

それまで映画やテレビでは作られたセットの中で撮影されると思っていたのが、ロサンゼルスで撮影をするようになり、実際に住んでいる住宅や街で撮影に使われていて、自然光の中で実際に使われているからこそ、リアルな空気感のある映画になる事を知りました。当社でカタログ撮影に使用した家も、ディカプリオ主演のアビエイターや、ブラット・ピット制作で主演したマネーボールで使用されました。取材に行ったダウンタウンのアールデコのイースタンビルではプレデター2で使われていて、訪問してから、どこかで見た事のある建物だな、、と思うと映画で使われていた事が多くあります。ブラット・ピットのマネーボールもTVで見ていて、あっ、この家は行った事のある家だとすぐに分かりました。人の名前と顔を覚えるのは苦手でも、行った事のある場所と家は一瞬見ただけでも分かります。

ブラット・ピットのマネーボールで使われた家は、訪問した200軒以上のアメリカ西海岸の住宅の中で一番住みたい家はどこ?と聞かれて、そこだと言える住宅です。マリブの海が見える海岸線の丘にあり、馬小屋のある古い住宅を2010年にリノベーションし、60歳代の夫婦がお住まいでした。そのご夫婦はアリゾナに住んでいて、終いの住まいとして購入されました。2013年の夏に撮影をする時に、TVドラマ撮影のスケジュールと重なり、危うく撮影がキャンセルになるところでしたが、現地でお世話になっているプロデューサーのYASUKOさんがそのTVドラマのプロデューサーと知り合いで、スケジュールを開けていただき撮影する事ができました。

マリブの海が見渡せる庭のある家は、住宅へ続くアプローチに木漏れ日が揺れ、爽やかな風が吹き抜けるエントランスが印象的で、部屋に入った時に青い空とプール、マリブの海が目に入り、思わず声を上げました。ナチュラルな優しい色合いのインテリアは白が基調で、いつまででも居たくなる住宅でした。この感染禍の中でも安心して家族が過ごす事ができる家とはこんな空間なんだろうなと今も思い出します。清潔感溢れるインテリアはどこも居心地が良いのですが、寝室とバスルームが特に印象的で、バスルームは高い天井でその天井近くに窓があり、柔らかな光がバスルーム全体を明るくして影を作りません。リビングなど他の部屋も柔らかな光に包まれるような家で、終いの住まいとして作られたオーナーのセンスの良さを感じました。

今年はアメリカ西海岸でのカタログ撮影だったのですが、私たちがワクチン受けられる日が、いつになるか分からないのでは、ロケハンに行く事もできません。いつの日か自由に行ける日を思いながら、マリブの爽やかな風を思い出しています。夏のアメリカ西海岸建築レポートでは、今まで撮りためた建築の中から、私自身が好きな住宅、建築の紹介でもしようかなと思っています。まだ不自由な時間が続きますが、お身体に気をつけて。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

マリブの住宅を使ったカタログ撮影カット
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左上:大きな木々の木漏れ日が爽やかなエントランス。右上:リビングの前の庭とプール。マリブの海が見渡せます。左下:リビングルーム。馬小屋だった場所にあるリビングルームで白い染色の床材が爽やかです。右下:この場所で撮影は行われました。ブラット・ピットの座っている椅子やソファはそのままで、住んでいる住宅をそのまま使用しているのが分かります。
左上:リビングから続くダイニングコーナー。シンプルなベンチだけのダイニングです。右上:現代美術館のような住宅で白い壁が陰影によって表情が変わります。左下:寝室は小さな暖炉とアートが掛けられています。右下:天井の高いバスルームで寝室と同じくらいの広さがあります。天井近くにある窓から光が柔らかに広がります。

2021.3.30 DESIGNER

空間のバランス

AD CODE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.118
当社ではお客様からプレゼンテーションをご依頼されることが多くあります。かなり以前はイラストボードに写真や家具図面を貼ってマーカー着色をして、平面図には手書きで家具をレイアウトしました。その際に役に立ったのが樹脂でできた家具用テンプレートです。そのテンプレートには家具の隙間や1人当たりの寸法が考えられたテンプレートで、それを図面に当てながら人の動線なども見ながら家具の配置を書いたので、自然に寸法感覚が身につく事ができました。今はプレゼン作成がパソコン作業になり、家具データを平面図に貼ることができるようになり、家具レイアウトも楽になりました。

しかし、家具配置は簡単にできるのですが、動線や家具の隙間や広さに対するバランスを考える事が希薄になっているように感じます。社内で作成したプレゼンを見ると、窮屈だったり、人が通れないレイアウトだったり、空間に対して家具が大きすぎたりとおかしく見える事も多くあります。お客様からいただく図面も椅子をテーブルの中に入れた状態で点線としてレイアウトされている事も多く、実際に人が使われている状態でのレイアウトでない場合があります。その平面図の上に、そのまま家具を配置しているので、椅子やソファに人が座っていると動線が取れていないレイアウトが出来てしまいます。樹脂でできた家具用テンプレートならテーブルと椅子の間が少し開いているので、実際に座った感じでレイアウトできるのですが、、。レイアウトも使われる方の家族構成や年齢によっても要点が変わってきます。

部屋の広さに対しての家具の占めるバランスも重要です。広いリビングにご指定のあった当社の家具のみ配置をして、他社の家具が入れられていないので、空間が空きすぎていて、スカスカになった平面図を見る事が多く、空間に対しての適度な家具ボリュームも考えないとと思う事もあります。アメリカの住宅を取材した時も感じる事が多いのですが、空間が広すぎて置かれる家具のボリュームが少なくてせっかくの空間が逆に貧祖に見える事があります。これは壁の空間も同じなのですが、白い壁ばかりだと寂しく見えて、アートを配置して空間のバランスを取られた空間は良く見えます。平面的には空間の3割の家具がバランスが良いとされています。大きな空間でも家具ボリュームのバランスが大切なんだと思う事が重要で、前々回もメルマガで書きましたが、不動産のフリップで成功する物件は家具をバランス良く配置して空間のバランスが取れている事が不動産価値も高めているんです。

感染の影響でお客様の所にお伺いできない事が多く、データのみをお送りする事も影響していて、プリントしてみれば感じられる事も、画面だけでの確認になっている事も原因の一つになっています。そこで、社内でプレゼンテーションの仕方や平面レイアウトの仕方の勉強会を行う事にしました。お客様に家具のレイアウトで少しでも良い提案できるように社員のスキルアップに勤めています。これからはプレゼンをお受けする際にはいろいろな質問をする場合があるかと思いますが、少しでも使いやすいレイアウトを作る為ですので、ご容赦いただけますでしょうか。快適な空間で当社の家具をお使いいただければより、快適にお過ごしいただけますので、、。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上下:ウエストハリウッドで3000万ドルで販売していた住宅です。巨大な住宅でしたが、家具の配置も考えられていてバランスが取れた住宅でした。すぐに買い手が見つかったようです。右上下:ビバリーヒルズの住宅で引っ越し直後という事もありましたが、家具が小さく感じて少し貧祖に見えます。ダイニングの椅子も中に全て入れられていて、空間が寂しく感じます。
左上:今はほとんど使わなくなった樹脂製のテンプレートです。昔は製図板(ドラフター)と鉄道定規で家具を書いていました。左下:このテンプレートは1/50ですが、1/100や1/200もありました。テーブルの外に椅子が置かれ、使用する状態でのレイアウトができます。右上:温泉旅館のレイアウトを1/100でトレペに書いた図面です。数百人の宴会場のレイアウトを描く時はサービス動線を考えながらで大変でした。右下:データで平面図を落とし込む時はお客様の動線は重要です。

2021.2.26 DESIGNER

本当の実力

AD CODE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.117
日本の基幹産業は自動車産業です。私自身デザイナーになったきっかけはスーパーカー世代で自動車のデザインに興味があったからです。バブル期に人気になった自動車レースの最高峰のF1では、日本メーカーのエンジンやドライバーが多く参加しホンダとアイルトン・セナの強さは世界を席巻し、TVでも放映され自動車人気が最高潮に達したのもその時期でした。その後、景気後退で日本メーカーの参加も無くなり、TV放送もされなくなりいつの間にか知られないスポーツとなりました。自動車も環境に悪影響のある道具として見られるようになりました。F1へ久しぶりにエンジンサプライヤーで参加していたホンダもこの景気で今年限りの参加になっています。そういった事から日本メーカーの海外での人気や実力はあまり知られなくなっています。

新型コロナで日本でのスポーツ世界戦は中止になりモータースポーツも同様に日本戦は無くなりました。その中、少し驚く事がありました。2020年の世界ツーリングカー選手権(WTCR)で中国の自動車メーカーのLYNK&CO(リンクアンドコー)が2年連続チャンピオンになになった事で、それも日本ではまったく知られていません。世界ツーリングカー選手権は国際自動車連盟 (FIA) が開催している世界8カ国を転戦する国際自動車レースです。トヨタが参加している世界ラリー選手権(WRC)は一般道を走る競技レースで、自動車選手権と双璧の自動車レースなのですが、どちらも市販車に近い車両を使用する為、ヨーロッパでは人気が高く、市販車の販売にも大きく影響をします。世界ラリー選手権では韓国メーカーのヒュンダイも参加しており、2年連続チャンピオンになっていてトヨタは2位でした。どちらのレースでも一時期は日本車が活躍していただけに車好きとしては、とても残念です。

新型コロナの発生源と言われる中国がワクチンで新興国や東ヨーロッパを中心に外交戦略を展開していますが、自動車産業でもいつの間にか主役になろうとしています。そっくりな粗悪車を作っていた中国メーカーが、ヨーロッパ自動車メーカーを傘下にして技術や品質を吸収しています。LYNK&COは中国の吉利汽車集団のグループ会社で、吉利汽車集団は2010年にボルボを傘下に収め、2018年2月には、ダイムラーに10%出資して筆頭株主になりました。その中でLYNK&COは欧州では価格帯も中級から高級車市場に狙いを定めて展開しており、車の開発はスウェーデンで行われていています。自動車レースの世界の結果でイメージアップさせる手法は昔からあり、日本メーカーがしてきた事ですが、その手法を中国、韓国メーカーが行なっています。日本メーカーが環境や利益を優先している間に、レースの世界でも抜かれてしまったのは、車好きには本当に残念で、日本頑張れ!と思ってしまいます。今後、電気自動車が自動車の本流になるのは間違いない事で、欧州車はハイブリッド車から電気自動車に本流を定めていてメルセデスベンツやボルボからは電気自動車の発表が続いていますが、中国の電気自動車の販売台数は世界一になり、電気自動車の分野で主流を目指しています。

このコロナ禍の中で日本はコロナのニュースばかりで、世界へ目を向けていなかったように感じます。相変わらず日本のすごさを売りにするTV番組が多く、いつの間にか日本はなんでも世界で一番だと思い込んでしまっているようです。日本の物作りの良さは、使われる方の事を思い、長く使い続けられるメンテナンス性の高さです。感染終息後の事を見据え、この時間を有効に使い、新しい仕事のあり方、新しいデザイン、より細やかな物作りができるように、自分を磨きましょう!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

上:LYNK&CO 03 WTCR/世界ツーリングカー選手権の2019年、2020年のチャンピオンカー。アウディ、ワーゲン、ヒュンダイ、ホンダが参加。2020年2位はホンダでした。 下:ヒュンダイ・i20クーペWRC。WRC/世界ラリー選手権の韓国メーカーヒュンダイのマシンで2019年、2020年のチャンピオンカー。2020年の2位はトヨタでした。2021年のWRCの開幕戦のモナコラリーではトヨタが完全勝利したので今年のWRCは楽しみです。

2021.1.29 DESIGNER

不動産投資のフリップとは

AD CODE DEVISE DESIGNER BLOG Vol.116
昨年末、NHKのBS番組で「ハリウッド華麗なる物件案内」という番組を放送していて、アメリカ・ロサンゼルス不動産事情を、現地の日本人のセレブ御用達不動産ブローカーの案内で見せていました。今、アメリカではファッションや店舗を持つ業態が壊滅的な状況で、ブルックスブラザーズなど有名ファッションブランドの破綻や、高級チョコレートのゴディバの北米撤退など多くのニュースが流れています。しかし、株式投資や不動産投資は活発で、特に不動産の売買は高級物件を中心に動いています。アメリカでのカタログ撮影でお世話になっている、プロデューサーの靖子さんに聞くと、靖子さんの住まいのあるウエストハリウッドには、今、セレブの映画俳優やお金持ちの多くが仕事場への通勤短縮にと住んでいたマリブから、ウエストハリウッドに移り住んでいて、エリアの不動産価値を高めているそうです。

アメリカ西海岸で撮影を始めて、建築ツアーでも多くの住宅や建築を見てきましたが、多くのオーナーは、少し住んで高く売って次にステップアップすると言われていて、特にインテリアデコレーションに力を入れている住宅ほど、仕上がりが素晴らしく、家具やアートも家の一部として一緒に販売されます。それが住宅の価値を上げる事にもなっているそうです。その事もNHKのBS番組の中でも紹介されていて、その不動産投資法が「フリップ」という名前で紹介されていました。私自身もロケハンの時に何軒か転売で利益を上げているオーナーに会うまでは、古い住宅が付加価値をつけて転売されている事を知りませんでしたが、リノベーションされた家の中を歩いて、その意味と実情を知る事ができました。日本では古い物件を購入し、かなりの予算をかけて新しくしたとしても、新築と同じ金額で取引されることはありえません。

しかし、アメリカでも古い住宅を新しく改装しただけで不動産価値が上がるわけではありません。人気のエリア、有名建築家の設計、有名人が住んだ家、人気のミッドセンチュリー時代のモダン住宅など、二度と手に入らない物件など人が欲しがる条件がいろいろあります。価値を上げるリノベーション手法は2つあり、建てられた時代と違う、新しいデザインを施した住宅で、多くは景観と置かれる家具が価値を上げてます。一方は、建てられた時代のオリジナルに戻すリノベーションで、有名建築家やその時代に人気だった建築家や有名人が住んだ家で、家具もその時代に合わせリプロダクトでないオリジナル家具で、コンセントやスイッチ類まで、その時代の物が使われています。ここまで徹底するかと驚く事が多くありましたが、相当なセンスと努力が価値を高めて利益を上げるフリップにつながります。

アメリカではいろいろな物に価値をつけて商売にしています。現代アートの取引もそうですが、有名なのは自動車で、古い車だけでなく、人気の車種でそれをオリジナルの状態にレストアして当時と同じ走りを取り戻した車に価値が付けられます。昔は古いフェラーリでしたが、この数年はナローポルシェと言われる1970年代の901型で、1960年代の356型と言われる古いポルシェより価格が沸騰しました。Gパンと言われるデニムも同じで、日本から火がついたのですが、戦中のデニムや鉱山内で発見される1920年代のリーバイスには数万ドルの価値が付けられてデニムハンターという仕事を生業としている人もいます。どれも欲しがる人がいるから価値が上がり、どの物も今では手に入らないという希少性が条件になります。日本の大正時代の着物があっても二束三文なんですが、、。

1月13日に開催したアメリカ西海岸セミナーでは原爆の父のオッペンハイマーが住んだ1960年代の住宅も紹介しましたが、照明スイッチや置かれる小物までこだわった住宅でした。今年はどのような情報をお伝えできるのでしょうか、実際に行って感じた事をセミナーとしてお伝えするのが私のスタイルです。次のセミナーをお楽しみに!
(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

ハリウッドヒルズに建つフォトグラファーの住宅。1970年代の住宅を2011年に購入し3年かけてリノベーションされました。まるで美術館のような住宅は家具もアート級で、売れば間違いなくフリップ成功です。
セレブが多く住むウエストハリウッドに建つ1960年の原爆の父、ロバート・オッペンハイマーの住宅です。オリジナルの状態に戻されて、キッチンのオーブンや水栓、コンセントやスイッチ類も1960年代の物が使われています。映画にも使われる家で有名人の住んだ家は人気です。