COLUMN

2022.8.31 DESIGNER

人間工学のモジュールは許容範囲として

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.135
先日、人間工学セミナーを開催しました。1000名を超えるお客様にWeb参加いただきましたが、終了時に協力いただいているアンケートの感想やご意見の書込みが今までで一番多く、皆様からの反響の高さに驚きました。アンケートには「昔習った事を再度思い出した」、「参考資料を見て決めていた」、「人体寸法から割り出せれた数字が使われている事で認識が変わった」など沢山の感想をいただきました。今回の人間工学では高齢者のモジュールやカウンターの高さ、テレビを置く高さや距離など私自身も再度調べる事があり、勉強になりました。自分自身も人間工学的に高齢者(60歳以上)になっている事にもショックを受けましたが、何歳になっても勉強する事の大切さを知る機会になりました。

テレビの高さや距離については液晶やプラズマのハイビジョン対応の距離などの資料がありますが、メーカー推奨距離は4Kや8Kの高解像度からかなり近い観視距離になっていて、快適に見るための距離ではありません。現在のテレビの標準観視距離は,視力1.0で画素構造が見えなくなる距離で画面高の3倍以上とされていますが、この距離では画像自体を粗くなく見る事は可能ですが、画面全体を自然に見る事ができません。それは人間が自然に画像を見ることができる有効視野は左右30度程度だからです。高さは目線とテレビの中心の高さは同じと書いてある事が多いのですが、その高さは座る椅子やソファの座の高さや姿勢によって変わります。人間の日常生活での有効視野は上下20度程度でその範囲以内が最適な高さと言われます。しかし、楽に見る事のできる角度は-15度程目線を下げた状態です。この左右上下の有効視野は高齢になればだんだん狭くなってしまいます。

受付やキッチンの高さも人間工学から割り出されたモジュールで、カウンター高さは1000ミリ前後と決まっている事が多く、それに合わせて作る当社のカウンターチェアは座位点からの差尺は280ミリとしてSH750ミリ前後で設計されています。なぜ、この1000ミリのカウンターが決まったのか?と調べると、決まった理由については奥が深いものでした。郵政省のカウンター高さが1000ミリと決まったのは昭和46年ですが、人間工学的に人間が立った状態で肘を前に90度曲げた状態の床から肘頭までの距離、肘頭高(ちゅうとうこう)の高さと同じ作業台として1000ミリが割り出されました。これは日本でも検証されましたが、それより前にゼネラルモータース社のファーレイが男子と女子が立った状態の作業や上下の棚に手を伸ばす場合の台の高さなど標準値を定めた寸法が参考になっていますが、その時のモジュールは肘頭高距離が基本で男子で1050ミリ、女子で930ミリでした。現在でも日本人の平均から割り出された肘頭高の高さは男女平均1000ミリとして使用されています。

キッチンでは調理道具を使っての作業を行うために、その高さより100ミリ程度低い高さが良いとされ日本のJISではh800、h850、国際規格のISOではh900、h950となっていて、だいたいのメーカーからはこの4つのモジュールから選べるようになっています。これは日本人平均の肘頭高距離の1000から-100でh900となりますが、奥様が立たれる場合として女子の肘頭高距離平均のh964-100でh850が現在の標準キッチンの高さになっています。今は男性もキッチンに立たれる事が多いので、男女平均ではh900の方が男性女性両方が使える高さになるようです。しかし、私の母のように148センチの身長ではキッチン天板が高くステップを置いて料理をされている高齢者もいるのではないでしょうか?めったに台所に立たない身長180センチの父の方が使いやすそうでした。本当にその方に合ったキッチンの高さを出すためには肘頭高距離を測って、それから100ミリマイナスするしかありません。ご夫婦両方が使われる場合は平均値を、一方だけならその方に合わせた方が快適に使用できるようです。

産業に使われる人間工学の各部位は217箇所ありますが、モジュールは数百人の実際計測から平均値を出したもので、最高と最低からの5%の人は除外されます。その平均値から出されたモジュールですので、それから割り出されたモジュールを使っての製品は平均値から離れていない人は使用できるでしょうとの事です。洋服などでもサイズ感や下着など身体に合わせる必要がある場合はもっとサイズが細分化されています。しかし、家具など不特定多数の方が共有する場合は男女間の平均値で製作する必要があります。しかし、人間は器用なもので、ある程度の差は慣れで使いこなします。人間工学も絶対ではありません。許容範囲内で製品が作れる目安だという事を知る必要があります。

私自身は170センチと日本人の平均身長なので、自分が目安に作れるので恵まれた身体だと今では親に感謝しています。洋服など既製品が合うので、オーダーメイドはする事はありませんが、ジャケットなどは腕の長さが左右1センチ違うので、お直しに出します。メガネもまつ毛が長いので(鼻も低いのですが、、)鼻パッドが一体のセル素材の場合は、鼻パッドを金属の物に特注してもらいます。当社の家具はお客様一人一人に快適にお使いいただけるように、座の高さなど特注をお受けしています。ぜひ、ご相談ください。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

薄型テレビの人間工学設計:TVとの最適距離と設置高さのモジュール
立った状態での作業台の適正な高さ:肘頭高(ちゅうとうこう)の距離から割り出されています。参考 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 成人の人体部位寸法から 
カウンターチェアの設計モジュール:高さH1.000は郵政省のカウンター高さとして昭和46年に決められました。

2022.7.29 DESIGNER

時を超えるデザインはバランス

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.134

ネット版のArchitectural Digestを読んでいます。アーキテクチュラルダイジェストは1920年に発刊されたアメリカNYのインテリアデザイン雑誌で、毎年、世界で最も影響力のあるインテリアデザイナーや建築家を表彰するAD100リストを発表しています。その100人の中の半数以上は、デコレーターが占めており、アメリカでのインテリア業界の地位の高さを感じます。そのサイトで当社のカタログ撮影で使用したビバリーヒルズにある住宅の事が出ていました。オーナーはスパイダーマンで主演したトビー・マグワイアなど有名ハリウッド俳優のエージェントで、1957年に建てられた家での撮影と彼との話を懐かしく思い記事を読みました。

撮影に使ったのは10年近く前の2013年で、カリフォルニアスタイルのエーモードとネオクラシコの撮影をしたのですが、モダンでもクラッシックでも部屋によってどちらにも合う住宅でした。この住宅は2006年に購入後5年かけ改装し、撮影時には完成後2年経ていましたが、床のテラゾーが驚く仕上がりで、部屋から庭の隅々まで緻密で、アメリカの建築精度の高さを考え直す機会になりました。また、奈良美智や村上隆のアート、ジェフ•クーンズの花瓶など本物の現代アートが置かれたインテリアのセンスには驚きました。床が尋常で無い綺麗さで、メイドさんが床掃除の時に掃除機を使わせてもらえないと漏らしていて、撮影時に建物を傷つけないように作業をするのに本当に気を使いました。撮影で使用する家は本当に綺麗で特に男性一人で住んでいる家は一部の隙がないくらい整っています。

アメリカ西海岸のインテリアはそれぞれ個人の好みで作られて、これが流行ったから右に倣えではありません。この数年はヴィンテージ家具を使ったインテリアが多く、時代を合わせた古びた懐かしさを感じるインテリアではなく、その年代の建物を新築時の状態にレストレーションにさせる手法もあります。また、デザインされた時代ばかりを合わせるのではなく、違う時代の家具やアートをうまく合わせる事によって、新たなモダン建築へと生まれ変わらせています。そういったエクレクティックスタイルも新たに生まれたインテリアスタイルです。この住宅の写真を見ながら改装されて10年以上経っているのに、今見ても少しも古くなく、新鮮に見えるのは建物の綺麗さだけでなく、家具やアートのバランスなんだという事がよく分かりました。

撮影に使った家は1957年に建てられ、オーナーのエリック・クランツラー氏は子供の頃このエリアに有名コメディアンのダニー・トーマス家を見るためにお父さんに連れて来られ、この辺りに家を持つ事が夢になったそうです。2006年にこの家を購入し、デコレーターのブラッド・ダニングに依頼をして改装が行われました。ダニングはトム・フォード、ソフィア・コッポラを顧客に持つ有名デコレーターで、オリジナル設計に基づいて平面レイアウトを戻し、この家の唯一オリジナルで残っていた玄関とダイニングの床に使われていた人造大理石テラゾーを修復し、建築素材を全てアップグレードしました。撮影前に床の修復について、今はほとんど居なくなったテラゾーの職人探しから始り、施工に3年以上かけたと聞いてピカピカの仕上がりに関心しました。建物だけでなく、アート・ルナが手がけたランドスケープとの調和も素晴らしい住宅でした。

2013年に撮影したイメージカタログを見ながら、時を超える製品デザインも重要だが、時を超えるインテリアに置かれるのも大切な事を感じました。インテリアは建築と家具、小物やアート、カラーなどバランス感がとても大切で、どちらかが突出しても低くてもダメなんですね。家具単体でなく置かれる空間をイメージできるかが、これからのデザイナーに求められるように思います。今は2023年モデルの新製品デザインの佳境です。お楽しみに!

(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

ビバリーヒルズの1957年に建てられたエリック・クランツラー邸。左上:ラウンドした赤みがかった石が特徴のミッドセンチュリー住宅。右上:玄関から部屋全体へ続くテラゾーの床。左側の中庭には竹が植えられています。左下:青いタイルの中に金のタイルが散りばめられた爽やかなプール。右下:アート・ルナが手がけた庭は裏山のアガペやクチナシの木々がバランス良く配置されて裏庭でも手抜きがありません。
2013年に撮影されたエーディコア・ディバイズのスタイル写真。フランス人カメラマンのドミニック氏撮影。左上:奈良美智の犬の像が置かれたフォーマルダイニングでMD-503とMD-107Lの撮影。右上:ペンダントライト下のファミリーダイニングに置かれたMD-501セット。左下:赤い石の暖炉のフォーマルリビングに置かれたMD-601ソファ。右下:裏庭に面したカーペットの部屋に置かれたネオクラシコブランドのソファセット。

2022.6.30 DESIGNER

運命の出会い

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.133
山下達郎が11年ぶりの新しいアルバム「SOFTLY」をリリースし、オリコン週間アルバムランキングで1位になりました。山下達郎は1973年活動開始で、もうすぐで50周年になることもあり、雑誌BRUTUS最新号でも山下達郎特集が組まれています。矢沢永吉、松任谷由実、桑田佳祐など65歳オーバーのアーティストの存在感がコロナ禍の中で増しています。さっそく「SOFTLY」を入手し、その中の「LOVE’S ON FIRE」のPVをYouTubeで見ましたが、山下達郎らしい都会的な曲とENDoの軽快なダンス動画は、達郎の年齢を重ねても今の空気を感じ取れる仕事は流石というしかありません。

初めて山下達郎を聞いたのは「RIDE ON TIME」で1980年大学生になった時でした。その後、1982年リリースのアルバム「FOR YOU」でファンになり、今でもiPhoneで「FOR YOU」を良く聞いています。新しい音楽は聞くようにしていますが、山下達郎の40年経た音楽が今でも新鮮でお洒落に感じるのは本当に凄いと思ってしまいます。大学生の時に感じた新鮮さと時間を経ても色褪せないセンスは私自身の仕事の手本にもなっています。昔は音楽を聴くのはレコード盤から入れたカセットテープで、山下達郎のアルバム「FOR YOU」もレコードジャケットを見て、なんて格好良いグラフィックデザインなんだと感心し、デザインの仕事でこんな方と仕事ができればと憧れていました。若い時は雑誌やレコードジャケットでデザインセンスを吸収するしかありません。ファッション雑誌の「流行通信」もその頃センスを磨くために良く見ていました。

社会人で家具のデザインをするようになり、家具デザインだけでなく、カタログ作りや撮影などPRする仕事も物作り同様、とても重要な事を感じて、様々な分野の方と一緒に仕事をするようになりました。2000年から高原宏さんというグラフィックデザイナーの方と仕事をするようになり、当社の広告やカタログ、海外撮影のディレクションなど多くの仕事をご一緒してきました。私自身、何をされていたより、今の仕事が重要だと思っていたので、高原さんが何の仕事をされてきたのかあまり聞いた事はありませんでした。何年か経ってふとした話から、高原さんが山下達郎や宇崎竜童のレコードジャケットを昔から手がけられていて、流行通信のアートディレクターをされていたと聞いて、本当にびっくりしました。学生時代に憧れた山下達郎の「FOR YOU」も高原さんの仕事で、その方と偶然仕事を一緒にしていた事に運命を感じると同時に、お互い引き合っていた事を感じました。

高原さんからいつか聞いた事ですが「FOR YOU」のジャケットデザインをする前、レコーディングスタジオで山下達郎さんからヘッドフォンを渡されて「自分がこだわっている音を聞いて欲しい」と言われて何回も聴いたそうです。残念ながら高原さんにはそのこだわりは分からなかったそうですが、それだけ音へのこだわりを高原さんへ教えたかったんだと思われたそうです。一緒に仕事をしてものすごく勉強になったそうです。瀬戸さんと仕事をしていてこだわりの部分と達郎さんが一緒だなと思った事が何度もあったと。達郎さんは職人気質が非常に強く、自分の中で消化した独自の理論があり勉強になりますが、瀬戸さんと話をしていると同じだなと何度も思ったと、、。憧れの山下達郎と一緒と言われて嬉しく思った事を思い出しました。

高原さんは温厚な人柄で人の話をじっくり聞いて仕事をされる方で尊敬できる人の一人です。「BRUTUS」山下達郎特集の中にお名前が出てきます。撮影のカメラマンの丸山さんやフランス人のドミニックさんやロスのプロデューサーのYASUKOさんなど尊敬する方々と仕事ができる事に運命を感じる日々です。コロナ禍で会えない日々が続いていますが、そろそろ海外ロケハンを兼ねた取材に行こうかと思っています。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左上:山下達郎1982年リリースのレコードアルバム「FOR YOU」裏を見ると高原さんのお名前がありました。他に「甘く危険な香り」「高気圧ガール」1983年の「クリスマス・イヴ」「RIDE ON TIME」など多くのデザインを手がけています。左下:アメリカ西海岸をはじめ撮影には必ず立ち会ってディレクションされます。右上:初めてアメリカでロケ撮影したカットで、1923年にフランク・ロイド・ライトJrが設計した住宅です。右下:毎年開催している納入写真コンテストの審査もお願いしています。中はフォトグラファーの丸山さん。

2022.5.31 DESIGNER

SDG’s的な素材を考える

AD CODE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.132

先日、バーチャルスニーカーが150万で売れた事がニュースになっていました。リアルに履く事ができない、CG画像のバーチャルスニーカーで、所有する事だけが目的で、メタバースと言われる架空空間で自分のアバター(分身)に履かせることができるスニーカーです。いくらシリアル番号があり、自分しか所有できないと言っても、PC画像内だけの物に150万を支払う市場があることに驚きと理解できないと思いました。リアルな世界で仕事をしている私などには理解できない事ですが、2次流通と言われる転売では数倍以上の値段で取引がされているようです。CGなので素材劣化の心配はありませんが、、。

リアルなスニーカーでも2次流通は増えていて、有名ブランドの人気モデルの手に入りにくい特別モデルだと購入後すぐに数十倍で転売されています。今はそれを狙って利益目的に転売する人たちも多くいるようです。スニーカー趣味の人には2足購入して1足は保管用として使用せずに飾っているそうです。以前もブログに書いたことがありますが、今のスニーカーには発泡ポリウレタンが多く使われていて、水分と化合物が化学反応を起こし紫外線で進行をさせ、加水分解してボロボロになってしまいます。履かずに大切にしまっておいたスニーカーのソールが履いた瞬間に崩れてしまった話をよく聞きますし、私自身も経験があります。この加水分解はポリウレタン素材には必ず起こる現象なので、加工された瞬間から劣化は始まります。今でもこの加水分解の劣化は持つ時間が長くはなってきましたが、防ぐ事はできず、平均耐用何数は製造から3~5年と言われていますので、消耗品として理解するしかないようです。

車の世界では、1980年~90年代の車が人気で、転売目的で高く取引がされていて、ハコスカやフェアレディZのようなネオクラッシックカーだけでなく、スカイラインGT-R34、マツダRX7といった比較的年数の新しいスポーツカーなど程度の良い車は1千万円を越える金額で取引がされるようになりました。これはアメリカに25年ルールというクラッシックカー登録制度があり、登録から25年以上経た車は右ハンドル輸入禁止解除だけでなく、関税、排気ガス規制も対象外になりアメリカを走れるようになり、映画スピードで人気になった90年代の日本車が若者を中心に人気で、投資の対象にもなっているからです。しかし、旧車で問題になっているのが、スニーカーで問題になっている化学合成パーツです。その時代の車はダッシュボードだけでなく、コンソールやドア内側、ハンドルやシフトノブまで発泡ウレタンが使用されていて、表面のべとつきや形状崩れなど、室内の多くが劣化が進んでいます。また、その時代のアフターパーツが無く代わりの物が手に入らない事です。

私が乗っているカルマンギアは比較的新しい年代はあまり残っていません。これは樹脂パーツの使用が多く、修理やアフターパーツが無いからです。足回りやエンジンなど金属の物はアフターパーツがあるので、交換や修理すれば良いのですが、樹脂パーツはありません。樹脂パーツは金属型で大量に作ると安く製造できますが、金属型が無くなれば、作ろうにも作れないからです。よほどの人気車でなければ、再生品もありません。先日、フランス車のシトロエンの日本ミーティングが行われましたが、2CVやクラッシックDSは多く、日本で1980年代に一番売れたBXという車種の方が少なかったそうです。ネオクラッシックというだけで購入すると大変な目にあう事になります。アフターパーツが多いか、修理できる工場があるか、自分で修理できるか、よく調べて購入しましょう。今、販売されている車は性能も良く壊れにくくなっていますが、液晶モニター、LEDランプや発泡ウレタンなど劣化する機械や素材がメインで、30年後に存在する車は無いのではないでしょうか、、。

家具の世界ではビニールレザーは最強で長持ちすると思われている方が多いのですが、ポリウレタンが使われた柔らかい人工皮革は加水分解が起きやすく、起きにくいと言われる塩化ビニールも数年後には固くなる事が多くあります。化学化合物の劣化は仕方がなく、その都度、張り替えなどメンテナンスを行えば良いのですが、結局は高い物になってしまいます。革はSDG’s的に悪者と言っている人もいますが、牛肉を食べる以上必ず取れる天然素材で、堅牢でメンテナンス次第で長持ちします。靴もポリウレタンでなく、ソールにゴムを使った製品であれば、手入れすれば長持ちしますし、自然由来の素材の素材であれば環境にも優しい物になります。使い捨てでなく、何年使えるかを考えて素材選びをするのもSDG’sの大切な責任の一つです。(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:1985年から37年間所有している1962年のカルマンギア。インテリアもダッシュボードの上のみウレタン製でほどんどが塗装で、ハンドルも塗装なので直せます。右:1972年以降のカルマンギア。バンパーやウインカーが違いますが、内装は鉄板部分は無く樹脂パーツで覆われています。ハンドルはウレタン樹脂ですが、オリジナルは交換されている物が多く残っていません。ビニールレザーのシートも劣化して硬いものが多くあり、この時代のワーゲンを維持するのは逆に大変です。
今、中古市場で1980年代以降の中古車市場では距離の少ない改造されていないスポーツカーの価格が高騰しています。しかし、内装の劣化が問題にもなっており、樹脂劣化の修復職人もいます。左上:日産・フェアレディZS30型系 (1969年 - 1978年) 日本の中古車市場でも1000万以上。左下:トヨタ・スープラ A80型(1993年-2002年)中古車市場では300万~800万。右上:日産・スカイラインGT-RR34型(1999年 - 2002年)中古車市場では1500万~2500万。右下:マツダ・RX-7 FD3S型(1991年-2003年)中古車市場では300万~1100万

2022.4.28 DESIGNER

西海岸ロケハンの思い出

AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.131
まだ新型コロナ感染が収束しませんが、欧米ではマスク着用義務解除の動きが加速しています。日本では新型コロナを感染症法上の引き下げを検討する動きが出てきました。今後、引き下げになると予防接種や医療費が自己負担になる事もあり、自己での予防の必要性はより重要になりますが、、。でも、そうなると世界との移動もある程度自由になり海外旅行への夢も広がります。美容室で髪を切りながら雑誌を見ていると、見た事のある場所を使っての広告写真がありました。スパーブランドの広告写真の多くは世界統一広告が多く、そのブランドの今の販売ターゲットが見えるので、広告を見るのもこれからのデザインの方向性を感じる大切な時間です。

これはミラノサローネの展示会も同じで、販売先のニーズが企画とデザインに反映されるので、世界的なトレンドとはまた違った方向性の製品が発表される事が多くあります。これはサローネ取材を続けていた時に必ず、今のメインの販売先とターゲットを先に聞くようになってから、そのデザインを理解する事ができました。ロシア、ドバイが好調なのはロシアの富裕層がドバイにも家を持ち、そこへの販売するためのデザインだったり、最近は中国が好調なら中国人の方が好むデザインを取り込むなど、イタリア人ビジネスを理解する事ができました。ハリウッド映画に最近中国の俳優が多く使われるようになったのも、映画を中国に売り込むための手法です。これは、バブル時代に経済で世界を席巻していた日本をイメージした映画が多く作られた手法と同じです。

美容室で見た雑誌の広告はイタリアのブルネロ・クリチネリです。ブルネロ・クチネリは1978年、イタリア・ペルージャで創業したラグジュアリーブランドで、カラーカシミヤを使用したニットブランドでスタートました。ブランドのコンセプトは、スポーツシックラグジュアリーで、イタリアの職人技術を大切にしたスーツ、ジャケット、シューズ&バッグやアクセサリーをはじめ、最近では、クッションやブランケット、キャンドル、ダイニングアイテムなどライフスタイルコレクションも展開しています。その広告を日本でも見かけるようになり、ロロピアーナと同じようにスーパーブランドでなくても、高価格帯の製品が売れるようになったのかと思っていました。

そのブルネロ・クリチネリの広告で使用されていたのが、ロサンゼルスのハリウッドの崖上にピエール・コーニッグが1958年に設計し建てたケーススタディハウスNo22のスタール邸です。ここにはアメリカ西海岸で撮影をスタートする2006年に最初にロケハンした住宅で、その後、当社のツアーでは何度も訪れている場所なので、すぐに分かりました。ファッションテイストはアメリカン・トラディショナル。撮影場所からもアメリカがターゲットなのは理解できます。新型コロナ感染でスペイン風邪以上の死者数を出したアメリカではいち早く経済活動をスタートさせました。好調なアメリカを販売先のターゲットとした販売戦略なのでしょうか、、。スタール邸は何度もファッションブランドの広告に使われ、今でも世界で一番有名な住宅として知られています。久しぶりに見た広告写真にスタール邸が使われていて懐かしく思いました。

初めて訪問した2006年にはスタールの奥様がご存命で、ご主人とピエール・コーニッグの事、家の歴史など説明していただき、実際の住まいとして使われているスタール邸を見る事が出来たのは夢のような時間でした。日本建築が源流のカリフォルニアスタイルの住宅で、全ての窓が引き戸になっていて、室内に立って初めて眼下に見える景色とインテリアの融合が、まさしく日本建築から来ている事を感じました。スタール邸にはその後、何度も訪問していますが、奥様がお亡くなりになって息子さんが相続し、有料公開をされていましたが、今は他の団体が所有し予約制で1時間$60~$90の有料ツアーでの公開になっているようです。今は新型コロナの影響でツアー中止になっていますが、いずれ再開されるのではないでしょうか。

海外ファッションブランドではパンデミック終息後を見据え、リアルに人と会い語り合える、当たり前だった日々の幸せを再認識し、改めてエレガントなウェアに身を包む大切さを、素材感や作りの良さからを感じさせる広告が増えているように感じます。リモートで出歩く事が少なくなり、ファッションがイージーでラフになっているように思います。そろそろ大人のエレガントを楽しみませんか。当社でも素材感を感じるファブリックや上質な製品が出るようになってきています。来月のレイアウトセミナーではエレガントな姿勢や導線をお話ししようかと考えています。お楽しみに!(クリエィティブディレクター 瀬戸 昇)

左:ブルネロ・クリチネリの広告写真。ケーススタディハウスNo22のスタール邸で撮影した事はすぐに分かりました。スタール邸もロケハンした、ロサンゼルスで最初に撮影した時にウエストハリウッドにお住まいのYASUKOさんの自宅で愛猫のイチロー君を使って撮影しました。スツールに使用したのはロロピアーナのカシミアファブリックです。
ピエール・コーニッグが1958年に設計し建てたケーススタディハウスNo22のスタール邸。全ての窓ガラスがスライド式で玄関が無く、どこからでも中へ入れます。崖の上にある家で、手すりも無い室内から崖上の庭にリュウゼツランの花が咲いているのが印象的でした。