AD CORE DEVISE DESIGNER COLUMN Vol.182
ミラノサローネなどの展示会へ行くと、スタイル展示が主流になっていて、作りこんだインテリアでの展示なのですがよそよそしく居心地が悪く感じることが多くあります。新製品をPRするための展示なのでしかたがありませんが、同じ製品で統一された展示では特に冷たく感じます。来場者がたくさんいる場合は空間の全容が見えないのであまり感じることはありませんでしたが、今回はサローネ時期が終わってから回ったショールームでは、展示製品はゆっくり見ることはできたのですが、整いすぎている空間は冷たく感じて居心地が少し悪く感じました。アメリカ西海岸での住宅で実際に使用されているインテリアとは違い、リアリティがないのは理解できるのですが、何かが足りないように感じました。
2026年3月に開催された2026-27年秋冬シーズンのパリ・ファッションウィークで話題になったのはクリスチャン・ディオールのジョナサン・アンダーソンが手掛けた2026年秋冬ウィメンズコレクションで招待客に送られたミニチュアの緑色のセナチェアです。セナチェアは1923年にパリの公共庭園のためにデザインされた椅子でパリのリュクサンブール公園に設置されました。その後、パリ中の公園や庭園に急速に広まりました。これらの椅子はパリの象徴的な存在ですが、オリジナルのデザイナーと製造者は不明だそうです。1990年椅子が老朽化し始めたため、フランス上院は入札を行い、リュクサンブール公園、チュイルリー庭園、パレ・ロワイヤル庭園向けに2,000脚の新しい緑色の椅子を製造する業者としてフェルモブ社を選定して製造されたそうです。そのヴィンテージ家具のミニチュアがコレクションの象徴として、ジョナサン・アンダーソンが使用したことで話題になりました。
クリスチャン・ディオールだけでなく、ルイ・ヴィトン メンズのクリエイティブディレクターであるファレル・ウィリアムスはショーでミッドセンチュリー風の家庭的なセット「Drophaus」を制作し、ラルフ・ローレンのコレクションでは、ランウェイにヴィンテージラグが使われ、椅子はアンティークやヴィンテージの椅子が並べられました。昨年12月には、ファッションデザイナーのマチュー・ブラジーが、マンハッタンのダウンタウンにある使われなくなった地下鉄駅に到着したヴィンテージ列車を背景にコレクションを発表しました。ヴィンテージデザインは職人技をイメージさせ、それがファッションの目指すものの象徴として多くのブランドで使用されたそうです。最初に話したクリスチャン・ディオールのジョナサン・アンダーソンもパリで最も有名な公園の1つのアイテムの椅子がレジャーを連想させる意味として招待客に送られたそうです。
今、インテリアの主流はエクレクティックスタイルでヴィンテージ、コンテンポラリー、個人的なアイテムを入れ、時間をかけて作り上げたような部屋が魅力的といわれます。新しく作られた空間に入る前に、長い歴史を刻んできたヴィンテージの品々には、本来的な豊かさが感じられ、それらを取り込むことによってインテリアに安定感を与え新しい家具とのコントラストを生み出し、洗練された印象を生み出し、それらに、個人的なアートや小物などのアイテムをデコレーションすることによって自然な印象を与える効果があるそうです。過度に均一で、流行に左右されたインテリアで、一つのトレンドに偏りすぎたり、あまりにもセットのような雰囲気の空間は、本物らしさを失ってしまう可能性があり、トレンドは出発点にはなりますが、適用しすぎると空間はすぐに時代遅れに感じられてしまいます。ミラノで感じた冷たさはこれだったのではないでしょうか。
それが実感できるようになったのは当社のショールームでのことでした。広尾ショールーム時代の展示は以前は当社製品だけで置かれ、当社オリジナルで統一されることが良いと思いこんでいました。六本木へ移転しショールーム作りをしたときに、アメリカ西海岸撮影でお世話になったプロデューサー靖子さんから譲り受けたヴィンテージの家具、照明、アートをショールームの中へ置き、デコレーションとして買い集めたヴィンテージ小物を置くと、固かった空間が柔らかく安定感を与えているように感じられたことです。当社も日本国内で職人が一つ一つ丁寧に作られた製品です。それを職人技を感じさせるヴィンテージ小物と合わせることによってイメージしていただけるのではないでしょうか。テーブルや飾り棚に置かれる品は明治から昭和の小物が多く使われています。家具や照明も1950年代のオリジナルものが置かれていますので、当社製品だけでなく小物もお楽しみください。
(クリエイティブディレクター 瀬戸 昇)